2020/03/27 22:02
PLAには融点はありますが、実はABSに融点はありません。3Dプリンタで、ABSは融点230℃くらいだから。。。とかいうのは本当は間違いです。
「融点」というのは結晶が溶けるときの温度を言います。PLAは結晶性樹脂で、ABSは非晶性樹脂。ABSは結晶がないので融点もありません。PETGも同じく非晶性樹脂なので融点はありません。じゃあいったい何度で溶けるの?ということになりますが、何度か明確にはわかりません。わからないというより、どこから溶けるとか溶けないとか、境目がはっきりしないままゆるやかに粘度が下がっていく感じになります。ABSは非結晶樹脂でアモルファスですので、温度を上げていってもアモルファスのまま、何もかわりません。
ただ、ABSは温度を上げていくと、一つ変化があります。これが「ガラス転移」といわれるものです。ガラス転移というのはとても理解が難しいですが、簡単に言うとアモルファスで凍結状態になり、動けなくなっている分子が、熱で緩んで動き出すことができるようになる温度、という理解が一番簡単かと思います。このときの温度が「ガラス転移点」です。ABSはグレードによってずいぶんガラス転移点に幅がありますがおおむね80~110℃くらいです。下はABS樹脂をDSCという熱分析を行った図です。105.66℃というのがこの図でのガラス転移点になります。ガラス転移点を超えると分子が動き始め、分子どうしの間隔が広くなるため、熱容量の変化が生じます。この熱容量の変化がDSCで見ると段差のようになって現れてくるというわけです。
ABSはガラス転移点より低い温度では固体としてふるまいますが、ガラス転移点を超えると特性が変わります。ABSはガラス転移点を少し超えた温度にしても、見た目はあまりかわりません。ただし熱で緩んでいるので力をかけると簡単に変形します。よく文献などではゴム状態と表現されることがあります。ただ、ゴムは力を除くと形が元に戻りますが、ガラス転移点を超えた樹脂に力をかけると変形したままで元に戻りません。ゴムというより、粘土に近い状態と考えた方が正確かもしれません。
ここからさらに温度をあげると、ゆっくりと樹脂が粘土状態から液体に近づいていき、だいたい230℃くらいになるとサラサラな流れの状態になるという感じになります。ABSは温度を上げていってもどこからが溶けているのか、溶けていないのかがはっきりしないまま、気づいたらサラサラになっているという何ともすっきりしない樹脂です。
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