2020/08/01 20:00
透明のPLAフィラメントはよく見かけますが、透明のABSフィラメントはあまり見かけません。あっても乳白色で少し透明度が落ちるものが多いです。上はバーベイタムの透明ABSフィラメントですが、これも乳白色になっています。完全に透明なABSがないのはなぜでしょうか?答えは相構造にあります。下はABS樹脂の電子顕微鏡写真です。
なにやら白いツブツブがいっぱい浮かんでいます。実はABS樹脂はAS樹脂(アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂)と、ポリブタジエン樹脂が入り混じった構造をしています。図でいう黒いところがAS樹脂の部分で硬い部分、白いところがポリブタジエンの部分で柔らかい部分です。ABS樹脂は固いASにゴム成分であるポリブタジエンが分散しているため、硬くかつ粘りがある特性を持っています。
ABS樹脂では分散ゴム成分の大きさが1~10μmぐらいでないと高い衝撃強度が得られないと言われています。可視光の波長より大きなゴム成分粒子が全体に分散しているわけで、分散粒子であるポリブタジエンの屈折率と連続相のAS樹脂の屈折率が異なっているために光の乱反射が起きてしまいます。なので一般的にはABS樹脂は完全に透明にはなりません。
フィラメント用としてどうかはわかりませんが、樹脂としてであれば透明ABS樹脂というのもあります。正確にはMABS(メチルメタクリレートアクリロニトリルブタジエンスチレン)と言われている樹脂です。メチルメタクリレート(MMA)モノマーをAS相に組み込み、ポリブタジエン相の組成を調整したもので、2つの相の屈折率が一致し、高い透明性が得られます。ただし組成の調整により、特性に影響がでてきます。透明ABS(正確にはMABS)は、ABS耐衝撃グレードの耐衝撃性や、ABS高耐熱グレードの耐熱性には及びませんが、ポリスチレン(GPPS)樹脂、AS樹脂より優れた耐衝撃性を備えており、吸湿性・比重が低く、成形性・熱安定性にも優れています。