2021/02/01 21:11


3Dプリント中には大きな熱の移動が発生します。熱は主には溶融樹脂を通してノズルからもたらされ、造形品に伝わります。熱は下の積層に伝わって拡散していき、最後には造形品自身を通して大気に逃げていきます。この熱の移動が造形品どんな影響を与えているか理解すると、造形で何が起きているか理解がしやすくなります。以下の論文をご紹介しながら熱の移動について考えてみます。

この論文では造形品の積層強度を上げるためにどうすればいいのかを考えており、その一つとしてノズルからの熱を利用する方法を上げています。下記は3Dプリンタにおける樹脂どうしの接合のメカニズムです。下に積層された層と、上に積層された層の高分子が熱拡散で移動し、分子どうしが絡みあっていくことで上と下の層が一体になり、積層強度が高くなります。これを実現するには下の層を温めておいて上の層を積層し、ゆっくり時間をかけて冷ましてやれば実現できそうだと予想できます。


造形中に、ある一点の温度がどう変化するかを測定したのが下記の図です。フィラメントの樹脂はノズルから出た後に外気で冷やされて急激に温度が下がり、次の層が来ると熱がかかって少し温度が上がります。冷やされて加熱されるサイクルを何回も繰り返して温度上昇は小さくなっていき、次第にベッド温度付近に落ち着いていくという変化をしています。

造形の速度を上げると樹脂が冷える前に次の積層が来ることになります。この熱で温度が押し上げられるため、造形品を長時間高い温度に維持することができ、積層強度は上がります。

ベッド温度でも造形品の温度は上げることができます。ただし一般的に樹脂の熱伝導率は悪いことと、造形品はインフィルなどで中に空洞を持っているため、ベッドの熱はZ方向にはそれほど伝わりません。造形品に熱を伝えようとしてベッド温度を上げすぎると造形品の温度ムラがより強調されてしまうことがあります。ベッド温度はあくまでベッドとの接触面に熱を伝えて反りを防ぐためのもので、造形品全体を均一に加熱するものではないと考えるほうがいいかと思います。

この考え方をベースにすると、冷却ファンを使ったり、多数個のパーツを同時に造形したり、冬場の造形を行ったりすると造形状態が変わったり、積層強度が下がることがある理由が考えやすくなると思います。この論文では造形品の温度を100℃付近にもっていき、PLA結晶化にともなう分子の再配列を狙って強度を上げる実験も行われています。興味がありましたら原文もお読みください。