2021/03/07 20:34

3Dプリンタではダイスウェルが発生します。ノズルから溶融樹脂を押し出すと、でてきた樹脂はふくらんで、断面積はノズルの断面積より大きくなります。これがダイスウェルです。ダイスウェルは押出成形やブロー成形時にもよくみられる現象です。


ダイスウェルの度合いは出てきた樹脂の最大径とノズル径の比で示され、ダイスウェル比と呼ばれます。下の図でいうとDe/Doがダイスウェル比です。ダイスウェル比は樹脂やノズル形状によって異なります。論文によると、3Dプリンタで報告されているダイスウェル比は1.05~1.3とされています。0.4mmのノズルの場合で考えると、出てくる樹脂の径は0.42~0.52mmになるということです。スライサーの押出し幅(Extrusion width, Line width)設定で、押出し幅はノズル径より大きくとることが一般的ですが、これはダイスウェルからきています。ダイスウェルは炭素繊維や金属粒子など非弾性のフィラーが添加されている場合には減少する傾向があります。


ダイスウェルは非ニュートン流体が細い流路内を流れるときに発生します。高分子はもともと長い鎖が曲がりくねってランダムにいろんな方向を向いています。これが樹脂にとって安定した楽な状態です。ところがフィラメントがノズルに押し込まれると、樹脂は溶融状態になり、ノズルの壁に沿ってせん断応力がかかります。そのため高分子の鎖は流れの方向にむりやり引き延ばされて配向します。これは樹脂にとってはきびしい、不安定な状態です。樹脂がノズルから出てくると、応力が解放されて楽な状態になろうとします。その結果高分子鎖は元のランダムな方向を向いた状態に戻ろうとして体積が増加します。なので吐出されたときにノズルの径よりも大きくなるわけです。


ダイスウェルはよくバネとダッシュポットがつながった、フォークト(Voigt)モデルという粘弾性のモデルを使って説明されることがあります。要は溶融樹脂に力をかけてもその力は100%流動に使われるのでなく、一部の力は樹脂が縮むことに変換されてしまうということです。ゴムを押し込んでいる様子をイメージしてもらうと理解しやすいかもしれません。



ダイスウェルはフィラメントに強い圧力がかかれば大きくなり、弱い圧力の場合は小さくなります。3Dプリンタにおいて圧力は一定にならないため、スライサーでいくら押出し幅の微調整をかけても実際にはその数値の通りに樹脂は吐出されません。これが3Dプリンタにおける造形の解像度の限界を決めている要素の一つだといわれています。逆に言えば、圧力を一定にしてプリントすれば造形はきれいになります。スパイラルモード、ベイスモードを使って造形するときれいになるのはこれが理由です。