2021/06/13 14:07


3Dプリンターのノズルは消耗品だといわれます。ですがノズルの変化にはなかなか気づきにくいです。ノズルはいったん取り付けると狭くてのぞき込みにくいことと、そもそもノズルの内面は見えないということがあります。また、実際のプリントではちょっと調子がおかしいな…となっても、スライサーの微調整で対応してしまうことがほとんどです。ノズルがどう変化しているのか意識することは少なく、何か造形品に大きな異常が出始めてから、もしかしてこれはノズルのせい?という感じで気づくというケースが多いのではないかと思います。ノズルを使い続けるとどんな変化が起きるのかをあらかじめ知っておくと、異常に気付きやすく、メンテナンスをやる意味も理解しやすくなります。


大きく分けて、ノズルには2つの変化がおきます。炭化と摩耗です。上の図は、使用済み品(左)と未使用品(右)のノズル断面写真です。使用済み品はノズル内面が黒くなっており、摩耗でダレや寸法の変化が起きていることがわかります。炭化と摩耗、どちらが優先的に起きるかは、フィラメントの材質で決まってきます。一般的なフィラメントを使用している場合は炭化が優先的に起きやすく、炭素繊維など硬いフィラーが添加されている場合は摩耗が優先的に起きやすくなります。

①炭化

フィラメントはノズルに送り込まれますが、実は送り込まれた樹脂の大部分は、溶けた時にノズルと直接接していません。ノズル内面にはずいぶん前に送り込まれて張り付き、劣化した樹脂の薄皮があります。送り込まれた樹脂はこの薄皮の上を走っています。薄皮はノズル加熱で劣化が進行し、やがて炭化します。たまにノズルから黒いコゲがでてくることがありますが、これはノズル内面に張り付いていた樹脂が劣化した炭化物です。炭化物は高い圧がかかったときに取れて外に出てくることがあり、ファーストレイヤーや、狭い部分を密に埋めていく場合などに、コゲや異物として造形品に付着することがあります。炭化はノズル壁面に張り付いて動かなくなっている樹脂薄皮の領域が多ければ多いほど起きやすくなります。流動性の高い樹脂を使ったり、ノズルの温度を必要以上に上げたり、ノズル内面の加工仕上げが悪かったりすると、炭化物はより厚く成長しやすいです。

3Dプリンタのノズル詰まり 考えられる3つのメカニズム

クリーニングフィラメントとは?

炭化は程度の差はありますが、3Dプリンタを動かす以上は必ず発生します。何もしなければどんどんノズル内部で炭化物が堆積していき、黒い異物の吐き出しが増えてきます。そのため定期的にノズルをクリーニングするか、ノズルを交換することが必要になります。

②摩耗

摩耗は平面部分とキャピラリー部分の2つに分けられます。どちらの摩耗も吐出圧が高くなる方向(積層ピッチが小さく、温度が低い設定)だと進行は速いです。摩耗の初期段階では、まずベッドとの定着が悪くなる症状が出てきます。摩耗が進めばその分ベッドとの距離が広くなるので定着が悪くなるわけです。これはその分ノズル位置を下げることで補正が可能です。

さらに摩耗が進むと、今度は平面部分の面積が広くなっていきます。これに伴いノズル先端への樹脂の付着も大きくなります。一筆書きであれば問題はありませんが、飛び石造形などトラベル動作が多い場合は樹脂のキレが悪くなり、造形外観が悪化することがあります。そのほかにも摩耗によってダレが伴うことで平面が曲面になるため、ノズル頂点部分での樹脂の押し付けが甘くなり、トップレイヤーの造形品仕上がりが悪化しやすくなります。

キャピラリー部分では摩耗でノズル径が太くなります。初期段階ではスライサーの径を増やすことで補正できますが、ノズル径が大きくなる方向になるので、特に微細造形の場合は次第にエッジのシャープさが失われてきます。摩耗は単純に進むのでなく、太鼓型になり、かつノズル出口では末広がりになります。偏摩耗によって液だまりになる部分が増えるので、リトラクションが効きにくなり、これも樹脂のキレが悪化する要因になります。

摩耗は硬いフィラーが添加されているフィラメントでは顕著ですが、一般的なフィラメントでも進行します。どんなフィラメントでも顔料が入っているためです。顔料は金属酸化物が使われることが多く、摩耗につながることが多いです。スライサーでの補正が効かなくなる前にノズルを交換するか、耐摩耗性のあるノズルを使用することが対策になります。

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