2021/07/10 23:35


色によってフィラメントの劣化度合いが違うというのは経験的に感じるところだと思います。これは単なる思い込みでしょうか?それとも理由があるのでしょうか?考えられる一つの理由としては、着色剤として入っている顔料があります。顔料の種類によって水の取り込み方が変化するため、これが吸湿劣化の程度に影響する可能性があります。顔料にはいろんな種類があります。何色だからこれが入っていると一概には言いにくいので、確実ではありませんが、色によっては顔料が限定されてきます。

黒:
カーボンブラックが使われていることが多いです。カーボンブラックは親水性の部分と疎水性の部分がありますが、親水性の部分に水を取り込みます。カーボンブラックは表面積が大きいこともあり、添加されることで吸水率が増えてしまうことがあります。そのため黒フィラメントは比較的吸湿劣化が進みやすい傾向があります。

白:
酸化チタン酸化亜鉛が使われていることが多いです。どちらも金属酸化物で水を通しにくい性質があります。添加されていると吸水率を下げてくれる傾向となります。吸湿の面からは白フィラメントは有利だと考えられます。

樹脂に水を通しにくい無機系の顔料が含まれていると吸湿が進みにくくなり、フィラメント保管における室内温湿度の影響を受けにくくなります。逆に水を呼び込みやすいものが添加されていると吸湿進行は速くなります。顔料ではないですが、吸湿が早い代表的なものが木質フィラメントです。含まれるセルロースが水を取り込みやすい性質があります。そのためか、造形では糸引き、ダマ発生、詰まりが多いといわれます。

他にも顔料の形状が水の取り込みの度合いに大きく影響します。顔料が樹脂におよぼす水やガスの透過の影響は、塗料やフィルムではよく知られています。図は塗料に顔料を添加した時の様子です。フィラメントのものではありませんが、理屈は同じです。


図で白部分は樹脂、青部分は顔料、赤線は水の侵入経路を示しています。水は空気を介し、フィラメントの表面から樹脂を通って侵入してきます。水は顔料は通り抜けられないので、迂回しないと先に進めません。

右図は、顔料のアスペクト比が大きくなり、板状になった場合です。長い距離を進まないと水は内部に浸入できないので、赤線の距離が長くなり、結果として吸水率が下がります。これが俗に言われる迷路効果です。このような樹脂に機能性を持たせる顔料は体質顔料と呼ばれることがあります。

左図は、顔料が球状の場合です。迂回経路が短くなるので効果は少ないですが、顔料がないよりは水の遮断効果は高くなります。

一方で、顔料がない場合は、何も水の侵入を防いでくれるものがありません。顔料が何もないということは透明なので、透明のフィラメントは水を取り込みやすくなります。透明は劣化しやすく使いにくいという経験のある方がおられるかと思いますが、それはこの辺りが関係している可能性もあります。

ヘッダー画像:

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