2021/10/22 23:21


酢酸セルロースフィラメントC38TSの造形条件をさらに追い込んでいます。これまで、たまにこういう造形不良が起きることがありました。


写真の上がZ方向で、積層の間に亀裂みたいなものが見えます。ところどころ樹脂が吐出できておらず、積層の間に空間ができている状態です。これが連続すると強度が著しく低下してしまいます。原因はガスらしい、というのは早い段階からわかっていました。このフィラメントは他の樹脂と大きく異なる点があります。流動はポリマーに頼っておらず、主に可塑剤が流動を生んでいるという点です。ポリマーは溶融状態で保持してもそれほど影響は受けませんが、溶融することで可塑剤はどんどん揮発していってしまいます。3Dプリント中にも可塑剤がガスとなって揮発していくわけです。このガスがもろもろの造形不良の主な原因だということが最近わかってきました。材自体は変えられないためとても難しい問題です。どうしようかと考えましたが、4つ対策を取ることにしました。

①ノズル径変更
ノズル径を0.4mmから0.5mmに変更しました。よりガスの抜けをよくする目的です。同じ体積の樹脂を押し出す場合でもノズルに接触する表面積が減るため、単位体積当たりではガスの発生量を抑えることができるという考えです。積層ピッチは0.15のままとしました。N/L比が2.67から3.33に上がったことで、より積層強度も確保できる方向となります。積層ピッチと造形品強度の関係

②ノズル温度ダウン
ノズル温度を232℃から225℃と少し温度を下げました。よりガスの発生量を少なくする目的です。これまではできるかぎり層間の溶融を進めて積層強度を上げるという狙いのもと、ノズル温度はできるだけ高めとしてきましたが、方向を転換することとしました。

③造形スピードアップ
ノズルのスピードを50mm/sから75mm/sに上げました。ノズルやバレル内での樹脂滞留時間を短くする目的です。溶融状態に短時間で持っていき、速やかに樹脂を排出し続ける方向です。

この3つの対策をとったところ、確かに吐出不良はかなり減りましたが、完全にはなくなりませんでした。さらにいろいろ試していく中で、どうやらある特定のパターンの時に吐出不良が起きている、ということがわかりました。細い壁に挟まれた空間を、XY方向に小刻みに振って埋めていくような場合です。この場合はスライサー上で速度を上げても吐出はゆっくりになってしまいます。フィラメント送りが遅くなるとバレル内での滞留時間が長くなり、ガスの量が増えます。ガスの量が増えると吐出が不安定になる、ということだと考えました。そこで、4つめの対策を追加しました。

④Thin Wall behaviorの設定変更
スライサー設定で、壁で囲まれた細い空間を埋めるときの動作を決めている項目です。Internal Thin Wall TypeをAllow gap fillから、Perimeters onlyにしました。


具体的にどう変わるのかというと…
これがAllow gap fill。


これがPerimeters only。


ノズル移動速度だけで見るとAllow gap fillの方が速いですが、結果としてはPerimeters onlyの方が速く樹脂を押し出しているようです。Perimeters onlyに変えたところ、吐出不良なく造形を完走することができました。


実際にはPerimeters onlyだと間が埋まらないこともあるようで、こういう場合にはAllow single extrusion fillが有効なようです。

これがPerimeters only。

これがAllow single extrusion fillです。


酢酸セルロースもずいぶん3Dプリント条件が追い込めてきた感じがします。実績を積んでまとまった時点で、また設定のまとめなどアップデートさせていただこうかと思います。