2022/01/02 18:03


金属や水は、原子や低分子なので、融点に達するととたんに液体になります。一方で樹脂は分子が長くつながった高分子です。高分子は鎖が絡まっているため、溶融しても水のようにすぐにサラサラの液体にはなりません。樹脂を流動させるにはある程度の力をかけてやる必要があります。力をかけて高分子の絡み合いをほぐしてやれば、鎖どうしが滑って流動を起こします。逆に言うと、樹脂は温度を上げただけでは十分に流動させることはできません。

このように、せん断によって粘度が下がる流体をシアシニング流体(Shear Thinning fluids)といいます。流体にもいろいろあり、せん断によって逆に粘度が上がってしまうシアシックニング流体(Shear Thickening fluids)もあります。水溶き片栗粉がそうです。ニュートン流体(Newtonian fluids)はいくらせん断をかけても粘度は一定という流体で、水が代表的なものです。


樹脂の実際のデータを見てみましょう。PLA樹脂の溶融粘度です。横軸にせん断速度、縦軸に粘度を取ったものです。せん断速度がゼロ(力がかかっていない状態)に近づくほど高い粘度になっていることがわかります。逆に、せん断速度は大きくすればするほど粘度は下がります。


このシアシニングという現象は、3Dプリンタには最適です。力をかけているときだけ粘度が下がって流動し、定着して力がかからなくなるとすぐに粘度が上がってダレを止めてくれるためです。シアシニングは3Dプリンタに関する多くの論文でも扱われており、重要な要素であることがわかります(スマートフォンの方は細かくてちょっと見にくいかもしれませんがご容赦を…)。



シアシニングの流れには特徴があります。下記はシアシニング流体、シアシックニング流体、ニュートン流体の流速分布を示したものです。円管内を左から右に向かって流れていると考えてください。横軸が流速、縦軸が円管内の位置です。


3つのうち、シアシニングは流速分布が弓なりの形をしていて、壁付近まで流れがあることがわかります。ニュートン流体はよく見かける放物線状の流れ、シアシックニング流体はニュートン流体よりさらに先端が突き出た形です。ニュートン流体とシアシックニング流体は中心は流れが速いものの、壁面付近では流れが滞留気味になっています。流れがシアシニングになるかは、壁面付近の流れが速いか、緩やかかによって決まるということになります。

フィラメント、ノズル、スライサーなどで壁付近まで流れるように調整し、流れをシアシニングに近づけることが、造形品質向上の考え方の一つになるかもしれません。