2022/01/24 23:16
今回はアニールでなく、3Dプリント中に起こる結晶化のお話です。結晶性樹脂の場合、3Dプリント中に結晶化が進行し、造形品の機械特性が向上するということはこちらでご説明しました。
PLAは結晶性樹脂ですが、実際にPLAフィラメントを使って造形したとき、3Dプリント中に結晶はできているのでしょうか?下記の論文で検討されています。
結論から言うと、PLA樹脂だけでは3Dプリント中に結晶化は進みませんが、PLA樹脂に結晶核剤、可塑剤を添加し、造形条件を整えれば結晶化させることができるようです。下記の各種PLAでプリントしたサンプルについて、X線回折で結晶ができているか調べています。
neat PLA : PLA樹脂のみ
PLA/PEG : PLA樹脂 + 可塑剤(ポリエチレングリコール)
PLA/TMC : PLA樹脂 + 結晶核剤(tetramethylene-dicarboxylic dibenzoyl-hydrazide:針状結晶を形成する)
PLA/PEG/TMC : PLA樹脂 + 可塑剤 + 結晶核剤
PEGは可塑剤で高分子鎖の移動度を上げる役割があり、TMCは結晶核剤で結晶のタネとなる核を作りやすくする役割があります。
これらをベッド温度を変えた条件でプリントしたのが下記の図です。Tbがベッド温度で60℃と90℃です。
60℃では結晶のピークはほとんど現れていませんが、90℃になるとピークが現れ始め、neat PLA < PLA/PEG < PLA/TMC < PLA/PEG/TMC の順にピーク強度が強くなっていることがわかります。上記の実験結果に基づいて考えられた、3Dプリント中のPLA樹脂の結晶化挙動が下記の図です。
3Dプリント中のPLA結晶化に影響を与えるのは主に2点だと考えられています。1つめはノズルで、PLA樹脂はプリント速度80mm/sで最大300s-1のせん断速度になります。ノズル内での高いせん断により、高分子鎖が配向し、結晶核ができます。このせん断は主に壁面で発生するため、押し出された樹脂の外側が結晶化し(crystalline surface)、内側はアモルファスのまま(amorphous core)という状態になります。この状態で造形すると、ビードの外側は常に結晶核ができているため、積層した際に吐出ビード径方向に結晶が成長し、積層界面を横断する結晶ができやすいというわけです。
2つめは雰囲気温度です。これは上の結果にもある通りです。PLAの結晶化温度は約100℃ですが、100℃に到達するまでに時間をかけてゆっくりと冷却することで結晶が成長する時間をとることができます。
Nature3DのPLAフィラメント2品種も可塑剤、結晶核剤が添加されています。興味があればお試しください。
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