2022/02/19 12:43
世界中でマイクロプラスチックが大きな問題になってきています。各国でプラスチックに対する規制がすすめられていますが、やはり安価で特性に優れるというメリットがあり、プラスチック製品に対する需要は増え続ける一方です。海洋環境中で速やかに分解し、かつ資源としても持続可能であるプラスチックが求められています。
有望視されている樹脂の一つが酢酸セルロースです。酢酸セルロースは木材や綿などのバイオマスが原料になっています。石油系樹脂が広く使われる以前、酢酸セルロースは繊維、フィルム、塗料などを中心に広く使用されていました。歴史的にも実績のある樹脂です。今でもよく目にするところでは、酢酸セルロースは紙巻きタバコのフィルターとして使われています。
これまで酢酸セルロース製品は海洋中で分解するのに最大10年ほどかかるというのが定説でしたが、数か月程度で分解するという調査結果が最近出てきています。下記は20℃の海水で25週間にわたり分解の様子を観察した結果です。
A : 25μm 酢酸セルロースフィルム(可塑剤なし)
B : 25μm 酢酸セルロースフィルム(可塑剤入り:トリアセチン)
C : 510μm 酢酸セルロース発泡体
D : 97g/m2 酢酸セルロース生地
E : 100μm クラフト紙
F : 91g/m2 綿布
G : 25μm LDPEフィルム
H : 126g/m2 PETE生地
A~Dが酢酸セルロース、E,Fがバイオマス素材、G,Hが石油系プラ、といった形です。A~Fは3週間目から大きく劣化し始め、形が崩れてなくなっていることがわかります。それに対してG,Hは着色はしているものの、形状としては変化がありません。
下記は各サンプルの質量変化のグラフです。横軸が時間(週)、縦軸は初期を100%としたときの質量現象率です。
黒が酢酸セルロース、緑がバイオマス素材、紫が石油系プラです。黒と緑は10週間程度でハンドリングが難しいレベルまで崩壊し、質量の60%が失われています。対照的に紫の石油系プラは崩壊がほとんど進まず、質量損失は測定誤差の範囲内という結果です。
分析の結果、A~Fはエステラーゼ、セルラーゼという活性酵素が存在していることがわかりました。下記は各サンプルの1週目、3週目、5週目、10種目のエステラーゼ、セルラーゼの量を示しています。
Eがエステラーゼ、Cがセルラーゼです。エステラーゼ、セルラーゼとも酢酸セルロースを分解する酵素です。高分子の鎖をバラバラにすれば微生物にとって栄養源とすることができます。これらの酵素が多いということは微生物が表面に存在し、分解が活発に行われているということだと考えられています。
出典:Rapid Degradation of Cellulose Diacetate by Marine Microbes