2022/05/13 19:33


樹脂自体は基本的に導電性はありません。電気を通す導電性フィラーを練り込むことで樹脂に導電性を付与することができます。工業的にはこのような導電性フィラー複合材が多く用いられています。

導電性を持つ材料と言えば、まず金属が思いつきます。銅や銀などは抵抗値が低い金属の代表例です。しかし金属を導電性フィラーとして用いるにはいろいろ制約があります。まずは熱による酸化です。樹脂とフィラーの混練造粒時、フィラメント加工時、3Dプリント時にはフィラーの表面が酸化します。この酸化膜は絶縁体として機能し、導電性を大幅に低下させてしまいます。また、金属フィラーは比重が重いため、樹脂中の分散が悪くなる傾向があります。均一に分散させるには高い混練エネルギーを必要とするため、混練装置のスクリューを摩耗させるなどダメージも大きくなりがちです。もちろん3Dプリント時にもノズルなどの摩耗が大きくなります。金属フィラーの場合は酸化が進行しないようフィラメントの保管にも注意する必要があります。このような難しさがあることから、一般的な導電性フィラメントにはカーボンを導電性フィラーに使ったものが多くなっています。

導電性フィラー複合材の場合、導電性は主に二つの方法で発現するといわれています。一つは導電パスの形成です。導電性フィラーどうしが樹脂中で接触してつながるというものです。樹脂中に電子の走る道が作られることで電子の流れが起こります。もう一つはトンネル効果です。導電性フィラーが近接している場合に起こります。電子がフィラーから隣のフィラーにジャンプし、次々に間にある樹脂を飛び越えながら電子が流れます。いずれの場合でも導電性フィラーはそれなりの添加量が必要です。樹脂中に少しだけ導電性フィラーを添加しても絶縁体のままです。少量添加では導電性パスが形成されず、フィラーも近接しないため、電子が流れることができないためです。

このため導電性フィラーの添加には閾値が存在します。少量添加だと導電性は発現しませんが、添加量を増やして閾値を超えると電子が流れるようになります。このようにある閾値を境にネットワーク構造が形成され、挙動が変化することをパーコレーションといいます(参考:導電性フィラメントとは?)。



導電性フィラーの形状はパーコレーションに大きく関係します。例えばカーボンナノチューブは細長い形状をしており、フィラーどうしが近接しやすいと考えられています。グラフェンも原子一層分の薄い板状で、比較的近接しやすい形です。カーボンブラックは比較的近接しにくく、その分添加量を多めにする必要があります。



ではカーボンナノチューブなどのフィラーなら一方的に有利かというと、必ずしもそうではありません。フィラーは細長い形状だと溶融粘度が高くなりやすく、吐出に圧力を要するためにプリントが難しくなる傾向があります。また、カーボンナノチューブやグラフェンは凝集が起こりやすいことでも知られています。凝集を起こすと導電ネットワークが形成されにくくなるため、元の材料の導電性はあっても実際にプリントすると導電性が悪化するといったことも起きやすくなります。導電性材料を3Dプリンタで扱う際、導電性フィラーに何が使われているかはとても重要な要素の一つです。