2022/06/02 10:57

3Dプリントの際、フィラメントはノズルに入った後、外側から熱を受けて溶融しますが、たいていの場合は造形速度が速いため、フィラメントはノズル入口で完全に溶けきりません。程度の大小はありますが、フィラメント中心付近で固体部分が一部残ることになります。そのためノズル内では固体と液体を分ける境目は放物線状になっています。この境界の温度がガラス転移点(Tg)です。




フィラメント送り抵抗を減らすため、フィラメントとノズル内壁の間には、通常0.1~0.2mm程度のギャップがありますが、溶けた樹脂はこのすき間から逃げようとして逆流します。しかし逆流すると固液境界よりも上に行くため固体になり、固体になった樹脂がまた引き込まれて液体になり、また逆流する…というサイクルを繰り返します。上の図はノズルに入ったフィラメント溶融の模式図で、中心から半分だけを書いたものです。Recirculation region(再循環領域)というのがこの逆流している箇所になります。Recirculation region はなくした方がいいようにも思えますが、フィラメントを送り込むためのシールの役割をしており、なくてはならない部分です。これがないと、いくらエクストルーダーで強い力をかけても樹脂がもれだしてしまい、ノズル出口からでてきません。

造形速度がさらに上がると、固液境界線の頂点は下に移動し、最終的には固体のフィラメント先端がノズル円錐部分に接触することになります。するとフィラメントは金属部分との直接接触によって溶融速度が上がり、液状樹脂が増えるため固液境界線の頂点は一旦上に後退しますが、また固体部分がノズル先端に押し付けられて溶融速度が上がるという繰り返しになります。こうなるとフィラメント固体部分の位置が常に上下に振れてしまうため、吐出が安定しません。3Dプリンタで高速造形を行うには、メルトゾーンをノズル先端より上に保つことが必要で、それにはノズルやバレルをある程度長くし、ヒーターに十分な能力を持たせる必要があります。

図はABSフィラメントの送り速度を上げていったときの温度と圧力のシミュレーション結果です(あくまで文献のシミュレーション条件によるため、数値でなく傾向に着目ください)。Vがフィラメント送り速度で、40mm/minと160mm/minは固液境界頂点は動かず安定です。200mm/minになると頂点が上下に振れ始めますが、50秒後には安定になります。280mm/minになると頂点の振れが大きくなり、いくら時間が経っても安定しない結果となっています。