2023/01/11 22:40


3Dプリンタ用フィラメントの市場予測はいろいろあります。それぞれ予想する成長率に差はあるものの、どのサイトを見ても、おおむね長期にわたって成長を続けていくという予測が出ているようです。FFF式3Dプリンタの成長とともにフィラメントも伸びていくと考えれば、自然なことかと思われます。


ところが成長が予想されているにも関わらず、依然フィラメントの多くは海外で生産されており、国内のフィラメントメーカーが出てくる様子は見られません。理由はいくつか考えられます。フィラメント用樹脂の御三家であるPLA、PETG、ABSの内、PLAとPETGは海外でしか生産されていません。ABSは国内でも生産されていますが、年々生産量は減っている状況です。フィラメント用樹脂の原料は、多くが輸入であるということが一つの原因としてあげられそうです。日本は原料を輸入して高い付加価値をつけた製品として輸出するのが基本スタンスですが、フィラメントの製造はそれほど高い付加価値がつく性格の加工ではありません。

また、確かに3Dプリンタの普及は進んでいるものの、世界で見ると日本での需要は小さいです。そのため量で勝負しようと思えば、輸出を前提にせざるを得ないことがあると思われます。日本でフィラメントを製造して世界に向けて販売する場合は、輸入でコストがかかり、輸出でもコストがかかるため、二重苦を元から背負うことになります。世界の主なフィラメントメーカーを見てみると、北米、ユーロ圏、中国に集中しています。樹脂原料もフィラメント需要も現地にある海外に対して立場が不利であり、どうしてもコストで勝負することが難しい背景があります。

また、フィラメントは原料コストの割に案外かさばる商品です。色などのラインナップも豊富に取り揃え、在庫を持つ必要もあります。広い倉庫に単価の安い商品を多量にストックする必要がありますが、敷地の狭い日本ではこういった対応が取りにくいこともあります。

地味ながら気候の問題もあります。日本は基本的に多湿です。3Dプリンタ用の樹脂のほとんどは吸湿に敏感ですが、製造の際に樹脂の乾燥があまかったり、原料や製品の仕掛かりを作ったりするとたちまち吸湿してしまいます。どうしてもドライヤーでの樹脂原料の乾燥時間を長めにとったり、工場内の空調を強化したり、工程管理を厳しくするなどが必要になりがちです。これもコストに跳ね返ってきます。

このような背景があると考えれば、国内のフィラメントメーカーが出てきにくいのも無理はないかもしれません。現在国内メーカーでは主に特殊なフィラメントに的を絞って作られていますが、上記のようなことも原因のひとつであるように思います。