2023/02/23 23:08


造形品の反りは、プリントされた無数のビードが変形し、それが累積して目に見える形で現れたものと考えることができます。反りは造形品内の内部応力によって起きますが、その内部応力はそれぞれのビードがガラス転移点から造形チャンバー内の温度まで冷却されることによって発生しています。

溶融した樹脂はノズルで高い圧力を受けて絞られるわけですが、この絞られたときのひずみは一本一本のビードにため込まれています。高分子鎖が引き延ばされたことによるひずみは、分子運動ができる温度域でしか解放されません。高分子が分子運動できる温度はガラス転移点より上の温度です。そのため、造形品の温度がガラス転移点以上に保たれていればひずみは解放され、造形品への残留応力は発生しないということになります。

しかし造形品の冷却が速すぎると、ひずみが解放されるのに十分な時間がありません。この状態でガラス転移点以下となった場合、造形品には何らかのひずみが残ります。このひずみを逃がそうとして、軟化した上の層に引っ張られて変形するのが反りです。造形品が全体的に冷えていてひずみを逃がすだけの柔軟性がなかった場合、ひずみはクラックとしてあらわれてくることもありますし、仮に造形品がなんとかひずみをこらえていたとしても、層間の分子拡散不十分のために造形品強度不足(積層強度の低下)としてあらわれることもあります。

反りは全体的な温度もそうですが、温度分布が不均一になってムラができることにも大きな影響を受けます。温度ムラはノズルから押し出されたビードの熱エネルギーが冷えた下の層に奪われることによって起きます。要は熱の逃げ方が場所ごとにバラバラだということです。この対策の一つが造形スピードを上げることで、早く造形すれば下の層に逃げる熱の量よりもノズルからもたらされる熱の量が上回り、造形品に熱がため込まれることになります。熱がため込まれれば造形品はガラス転移点に近づくのでひずみは逃げやすくなりますし、伝熱によってある程度造形品温度も均一に近づくため、ムラ解消の意味でも有利です。

3Dモデル形状でいえば、サイズの大きい形状、薄肉の形状、細長い形状は表面積が大きいため熱が逃げやすく、スライサー設定を調整しても熱がため込まれにくくなるので反りの観点からは難易度が高くなります。反対にサイズの小さい形状、肉厚の形状、円に近い形状は調整で熱のため込みを作りやすいため反りは抑えやすいです。また、インフィルや外郭などツールパスを最適化することでも温度勾配に起因する反りを抑えることができます。隣り合うビードどうしでノズルが通過するまでの時間を短縮する方向でツールパスを考えると温度勾配は減少し、ゆっくりと冷えるようになるので造形は安定します。

業務用プリンターの中には造形チャンバーの温度を制御できる機種もあります。このような機種なら熱の逃げはかなりコントロールされ、3Dモデル形状やスライサー設定の制約からくる職人的な勘や経験での設定が減るので扱いは楽になります。一般の民生用プリンターでは造形チャンバー温度の制御機能がないことが多いです。ガラス転移点が高い樹脂を扱ったりすることが難しかったり、有効造形エリアが広くても実際にはそれより小さいエリアでしか造形が安定しないということも起きやすくなりますが、これは造形チャンバーをエンクロージャーや保温材で囲った上、造形前に予熱したり熱の逃げを少なくすることである程度軽減できます。

参考文献: