2023/07/21 17:08


生分解性プラスチックは最近ニュースでも取り上げられることがあり、よく耳にするようになってきました。実は生分解性プラスチック自体は何十年も昔からあり、それほど最先端の素材だというわけではありません。ただ、生分解性プラスチックは環境対策にとって重要だといわれながらも依然普及が進まない現状があります。いったいなぜ流行らないのでしょうか?

1. コスト
これは一番見えやすい問題だと思われます。生分解性プラスチックは一昔に比べれば安くはなりました。しかし安くなったとはいえ依然高いのは事実です。樹脂の種類や購入単位にもよるので一概に言えないものの、生分解性樹脂の価格はだいたい汎用樹脂の5~10倍以上になります。樹脂メーカー側は多量に使ってくれるようになれば安価に供給できるといい、成形メーカー側は安価に供給してくれれば多量に使用できるという形でなかなか両者の折り合いがつかず、長年膠着してしまっています。

2. 信頼性
生分解性プラスチックで作った製品はしばしば信頼性が問題になります。昔ある自治体が印鑑登録証を生分解性プラスチックで作ったために長期保管で劣化し、材質を変えて作り直さざるを得なくなったというのは有名な話です。生分解性プラスチックは耐久性、強度などの面で従来のプラスチックに劣ることが多いため、使用用途が制限されてしまいます。品質保証上で何かあったときのことを考えると、メーカー側はどうしても素材として生分解性プラスチックを採用しにくいという側面もあります。

3. 処理施設の不足
生分解性プラスチックはいくつか種類がありますが、それぞれの分解プロセスや期間が異なります。環境中に放置すれば自然に分解してくれるものばかりではないため、生分解性プラスチックの種類に応じて必要な施設を備える必要もあります。たとえば微生物によって分解させるたい肥化施設がそのひとつです。しかしこのような生分解性プラスチックを適切に処理できる施設が十分に整備されていない地域も多くあります。また、生分解性プラスチックの処理について国際的な標準化が不十分なことも、処理方法の違いや混乱を引き起こしています。

4. 消費者の意識不足 
生分解性プラスチックは環境に優しいとされていますが、上の処理施設の部分で書いたように、実際には適切な環境を人間が作らないと分解が進まないことがあります。消費者側からはこの点は見えにくくわかりにくくいため、間違った形で廃棄したり、場合によっては自然に分解してくれるからと環境中にポイ捨てや投棄を行ってしまうこともあります。また、生分解性プラスチックと従来のプラスチックは色味や手感の硬さなどでは見分けがつきにくいこともあります。今後生分解性プラスチックが普及すると、これらを意図せずに混在させてしまうことも増えるため、これまでできていたリサイクルが難しくなる可能性も指摘されています。

5. 規制や法律の整備不足
生分解性プラスチックの普及促進は一企業の努力だけではできません。広い枠組みとして適切な規制や法律の整備が必要になってきます。しかしこれは各国の利害関係や地域においての調整や意識改革が必要になってくることもあり、一筋縄ではいきません。結果として従来のプラスチックに対する規制や生分解性プラスチックの普及促進の足並みがなかなかそろわないのが現状です。対応がバラバラで統一感がなければ理解も浸透もしにくいため、世の中の意識改革も進みにくく、企業が積極的に生分解性プラスチックを導入するモチベーションも低くなってしまいます。

生分解性プラスチックをとりまく状況は複雑で、ひとことでこれさえクリアできれば解決だとスパッと言い切るのは難しいです。単純に素材側の問題なんでしょ?という形で任せきりにしていては物事は進みません。もちろん素材側において技術が進歩することも必要ですが、それとともに法規制の整備、消費者の意識向上など社会的な側面からのアプローチも必要です。今後は総合的な視点から、全体としてのプラスチック素材がより持続可能な形に変わっていくことが望まれます。

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