2023/07/29 16:31
3Dプリンタの造形では樹脂が冷却されることで連続的に収縮が起きています。吐出している細いビード一本だけを見ると影響は小さいですが、3Dプリンタではビードが無数に積み重なって造形品ができているため、全体を通してだと影響はかなり大きいものとなります。造形中に発生する収縮の力は、何らかの形でバランスをとって釣り合う必要がありますが、下図のように収縮の力は造形品自体を伝わってベッド定着面を通して解放されることになります。
この収縮力の解放が、造形品の反りとして現れてくるわけです。プリントが終わった造形品を見ると、ほとんどの場合底面はフラットでなく、程度の差はあれいくらかの反りを持ったものになります。シンプルにするため図では完全にベッドで収縮力が解放されるような形で書いてありますが、実際には完全にベッド定着面で解放されることはなく、収縮力は一定の割合で造形品自身がひずみとしてため込んだ状態で造形が完了することになります。収縮力は造形中の層だけに影響するのではなく、これまでに積層してきた下の層にまで影響を及ぼします。これが造形サイズが大きくなるほど造形難易度が上がる要因の一つです。
反りや収縮の影響を小さくする方法はいくつか考えられます。一つ目は収縮力を小さくすることです。適切なフィラメント材料を選定する(PLAなど収縮率の小さい材料を使用する)、造形中の雰囲気温度を上げる(エンクロージャーなどで熱の逃げを小さくし、ゆっくり冷却してできるだけひずみをその場で解放する)などが主に使われる手です。
二つ目はベッドの定着力を上げることです。ベッドから剥がれようとする力がかかっても、定着力でこらえてやれば反りは起きません。ベッドにのりを塗ったり、表面を溶剤などで洗浄したり、表面にザラザラがついたプラットフォームシートやテープを使ったりする方法がよく用いられます。この方法は確かにひずみは解放されにくくなりますが、逆の視点でみると造形品に力をため込む方向になります。材料や3Dモデルによっては力をこらえきれずに造形後何日か経つとクラック発生という形で応力が解放されてしまったり、少し力を入れただけで割れてしまう脆い造形品になってしまうこともあります。定着改善だけで反り対策をすると別の問題が起きることもあるため注意が必要です。
三つめは造形品そのものの剛性で変形をこらえることです。ガラス繊維や炭素繊維などで強化した樹脂などを使うと材料の剛性が向上します。収縮による力がかかっても自身の剛性が高いため、造形品は変形しにくくなります。これとは全く逆の発想で、剛性をなくしてフニャフニャにしてしまうという考えもあります。収縮による力がかかっても、力がベッドに到達するまでに造形品自身が変形してひずみを逃がしてしまいます。TPUなどが代表的なものです。
ラフトを使うことでも反りは抑えられます。ラフトなしの場合、収縮の力はベッド定着面の造形品先端に集中的にかかることになりますが、ラフトの場合は造形品との接触部分は密でなく間隔ができることになるため、力を分散させて逃がすことができます。