2023/10/30 19:53


セルロースは地球上で最も豊富に存在するポリマーで、植物の主要な成分です。毎年、数十億トンものセルロースが植物の光合成を通じて生成されていると言われています。セルロースは手に入れやすく、リサイクル可能で、かつ持続可能な原料であることから、古くからさまざまな方法で利用されてきました。

セルロースをプラスチックの材料として使用しようとする試みも、かなり昔から行われています。この歴史は1900年代にまで遡ります。セルロースは分子に水酸基をもっていますが、水素結合によって強く結びついています。そのため熱をかけても容易に流動せず、セルロースはそのままではプラスチックとして使うことはできません。

セルロースに熱可塑性を付与するには、水酸基を切断し、代わりの官能基で置き換える必要があります。このような特性の変更を実現する過程は「化学修飾」と呼ばれます。

セルロース系プラスチックの最初の実用化例は、水酸基を硝酸(ニトロ基)で置き換えた「ニトロセルロース」です。これは一般に「セルロイド」として知られています。セルロイドは、ニトロセルロースに樟脳(クスノキの材片を水蒸気蒸留してできる物質)を可塑剤として添加したものです。セルロイドは世界で最初に広く使用されたプラスチックで、1930年代には日本で最も生産されていました。

しかし、ニトロセルロースには非常に燃えやすいという欠点がありました。1940年代には映画館の火災が頻繁に発生するといったことがおきていました。映画用フィルムにはニトロセルロースが使用されており、当時の光源だったアーク灯から引火したことが主な原因とされています。

この燃えやすい性質を克服するために開発されたのが酢酸セルロースです。酢酸セルロースは水酸基をアセチル化し、酢酸に置き換えたものです。


柄物の酢酸セルロース樹脂シート。メガネフレームなどに用いられる

酢酸セルロースもプラスチックとして優れた特性を持っており、繊維や塗料などに当時よく用いられましたが、セルロイドと比べると広く使用されるプラスチック素材としては比較的短命に終わりました。1950年代になると石油化学産業が勃興し、価格や耐久性の面でより優れた石油系プラスチックに取って代わられたためです。

しかし近年になって大量に流出する石油系プラスチックゴミが世界的に問題視されはじめました。添加される可塑剤も生分解性を持つものが開発され、酢酸セルロース樹脂は生分解性プラスチックとしてふたたび脚光を浴びることになったわけです。

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