2024/03/12 13:34
この低融点合金は、もともとテスト的に鋳造で使っていた材料です。耐熱PLAフィラメントの耐熱性をわかりやすく示すために、PLAの型で低融点合金を使った鋳造を行っていました。その後PLAフィラメントを販売し始めましたが、低融点合金も鋳造用材料として扱ってはどうかということになり、鋳造の実績や物性データを集めて販売を始めました。
用途としては、アクセサリー、ルアー、記念品などを作っておられる方が多いようです。低融点ハンダと同じ組成のため、基板実装用の材料としてお買い上げいただく企業の方もいらっしゃいます。
低融点合金にはいくつか種類があります。ウッド合金(融点70℃)、ニュートン合金(融点95℃)、ローズ合金(融点98℃)などが有名です。融点が低いので溶かす上ではラクなのですが、このような合金には鉛、カドミウム、インジウム、アンチモンなど、毒性があったり、有害性が懸念される元素が含まれています。製作品を身の回りで使うにはあまり適していません。製作の際も、バリ取りや研磨などは微粉末が出ると吸い込んだりする可能性があるので、注意する必要があります。
138℃低融点合金は、スズとビスマスの2つの金属だけの組成になっています。どちらも毒性はない金属で、クラフト用途としては安全に使うことができます。低融点合金は昔から研究されていて、融点と合金組成はほぼ開拓されていますが、できるだけ融点が低く、かつクラフト用途に向く組成はおそらくスズービスマスの系だけになるかと思います。
低融点合金は、失敗しても溶かしなおして繰り返し使うことができます。ただし無限に使えるわけではありません。溶融金属は酸化しやすいため、溶かすたびに酸化膜がでてきます。この酸化膜は除去する必要があるため、使用のたびに低融点合金は少しずつですが減っていきます。あまり溶解の温度を上げたり、長時間溶融状態で放置すると酸化膜が増えていくので注意が必要です。
同じような商品で、他サイトでは150℃型の低融点合金も販売されています。同じくスズとビスマスが使われており、組成は近いのですが、融点に差があります。より細い形状まで流れ込んでくれるので、はじめて鋳造をトライする方には138℃型の方が難易度は低いと思います。
また、凝固時の体積変化率にも違いがあります。凝固時の体積変化率は、150℃型の低融点合金はほぼゼロです。それに対して、138℃型の低融点合金では+0.77%と若干大きくなっています。ただ、他の純金属に比べて絶対値としては十分に小さい体積変化率です。プラスの体積変化率は、凝固の際に膨張するという意味です。一般的に溶融金属は凝固の際に収縮しますが、138℃低融点合金にはビスマスの影響で、凝固時に膨張します。
鋳造では凝固収縮の引けからくる不良が起きますが、138℃型の低融点合金では逆に凝固時の膨張によって最後の一押しが起きます。これは型のわずかなすき間を満たしてくれたり、型の細かい模様を転写してくれるなど、有利に働く効果があります。少し鋳込みの条件が悪かったり、型の構造に多少無理があっても成功しやすいです。
一方で、凝固の膨張はデメリットになることもあります。膨張の力で型に密着しすぎ、離型が難しくなるなどです。これは型に離型剤を塗っておくことで対策できます。離型剤はシリコンオイルなどが使えます。樹脂型の場合、鋳造品の形状によっては膨張の力で押されて型が変形することもあります。これは型に外枠を作ったり、型を肉厚に作ることで、ある程度対応できます。
色目としては、150℃型の方はやや白い感じの金属光沢で、138℃型は少しグレー調の光沢になります。
150℃型と138℃型は価格も異なるので、目的に合わせて選ぶといいのではないかと思います。