2025/05/04 11:18
釣りで使用されるワームには毒性が懸念されるものもあります。ワームの成分は一般的に公開されることがありませんが、環境を考える上では、ワームがどんな成分で構成されていて、どんな毒性があるのかは知っておく必要があると思います。
ワームの成分分析を行っている文献をご紹介します。
下記はわかりやすく抜粋、意訳したものです。詳細は原文を参照ください。
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分析したワーム

タイプF
重さ3.99 ± 0.01 g、長さ90.13 ± 1.75 mm。組成に関する情報は記載なし。色がパイクパーチ、トラウト、バスなどを引き付けるのに最適といううたい文句。素材に関する情報は、樹脂製であるということだけ。テール部分が非常に柔らかい。価格は50個入りで22ユーロで、3つの中で最も安価。テール部分が非常に柔らかいのは、可塑剤が多量に使用されている可能性がある。
タイプN
重さ5.93 ± 0.02 g、長さ85.13 ± 1.23 mm。組成の詳細は記載されていないが、非フタル酸系可塑剤を含むポリ塩化ビニル(PVC)で、可塑剤は無毒性のものが使用されており、ニンニクフレーバーが施されているとのこと。5個入りで10ユーロと高価格帯。
Zタイプ
重さ1.95 ± 0.05 g、長さは76.97 ± 1.02 mm
メーカーの情報によると、ビスフェノールA(BPA)やフタル酸エステルなどの有毒な可塑剤は含まれていない。ニンニクパウダーとアミノ酸を混合したゴムに、15%の塩とエビ油フレーバーが施されている。価格は10個で7ユーロで、中価格帯。
分析結果

全てのサンプルで、ベースポリマーであるPVCが検出された。PVCには1種類または2種類のフタル酸エステル系可塑剤が添加されており、PVCおよび可塑剤の分解生成物として、ベンゼン、トルエン、1-クロロウンデカンが検出された。
タイプF
可塑剤は、フタル酸ジエチルヘキシル (DEHP)およびジブチルフタレート(DBP)と特定された。SEM-EDX分析の結果、リン系難燃剤やバリウム亜鉛安定剤などの他の充填剤の混合物も含まれていた。顔料は主にメラミン樹脂をベースとしているものが検出された。
タイプN
可塑剤はテレフタル酸ジオクチル (DEHTP)を含むPVCであると特定された。他のルアーとは異なり、追加の無機充填剤は検出されなかった。タイプNの顔料は主にポリエステル系顔料だった。
タイプZ
可塑剤はフタル酸ジイソノニル(DINP)とその分解生成物が検出された。無機充填剤は、硫酸ナトリウムが主成分だった。SEM-EDX分析により、対象物表面に塩化ナトリウム(NaCl)のコーティングが確認された。顔料は主にメラミン樹脂を主成分としていた。
ワーム浸出液の毒性
試験した3種類のルアーの浸出液にH. azteca(ヨコエビの一種)を曝露すると、概して試験生物の死亡が引き起こされた。タイプFでは最も深刻な影響が観察されたのに対し、タイプZとタイプNではH. aztecaの死亡率への影響は有意に低かった。
ディスカッション
「環境に優しい」と表示されている製品は毒性が低いものの、試験対象となった全てのルアーには、時間の経過とともに水に浸出する可能性のある有害物質が含まれていた。試験対象となったルアーの種類の中で、最も安価で組成が複雑である製品において、毒性が最も顕著であった。また、これは透明性が最も低い製品でもあった。
各製品の主成分はPVCであった。このポリマーには、釣り用ルアーとして求められる製品特性を満たすために、様々な添加剤が配合されている。様々な種類の可塑剤、無機充填剤、メラミンまたはポリエチレン顔料が使用されており、あるブランドでは難燃剤も使用されていた。ブランドによっては、塩や香料を含むコーティングも使用されていた。これらは一般的に毒性が懸念されるものである。
最も毒性が高かったのは最も安価な製品タイプFで、この製品には可塑剤のDBPとDEHPも含まれていた。これらはいずれも、生殖毒性および内分泌攪乱作用を有することから、EUでは規制されている物質である。さらに、この製品には、水生生物に毒性があることが知られているリン系難燃剤と金属系無機充填剤が含まれていた。
環境に優しいと宣伝されているタイプNとタイプZでは、可塑剤は1種類のみで難燃剤は検出されなかったものの、試験対象生物に対する生態毒性影響は依然として明らかだった。環境に優しいとうたわれている製品では、PVCに添加される添加剤の種類が少なく、長期的には環境への影響が少ないと考えられる。
3種類すべてに共通していたのは、PVCの分解生成物であるベンゼンとトルエンであった。ベンゼンは毒性の強い物質で、水環境中に存在すると水生生物に有害な影響を与える可能性がある。ベンゼンの水生生物に対する毒性はよく理解されており、規制当局は生態系を保護するために水中の濃度を制限する基準を設定している。ベンゼンはH. aztecaを含むさまざまな水生生物への急性毒性がある。トルエンは魚類や無脊椎動物などの水生生物に対する急性毒性は低いと考えられている。
3種類のルアーからの浸出液で観察された毒性影響の違いは、特定の添加物との複合要因に関連している可能性がある。例えば、最も毒性の低い浸出液を持つルアータイプNには、塩や無機充填剤は添加されていなかった。対照的に、タイプZ浸出液は高濃度のNaClとNa2SO4が確認されており、これが時間の経過とともに試験生物の死亡率の上昇に寄与した可能性がある。
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ワームは釣具屋さんにいくと多数のきれいな商品があり、パッケージからも強いメッセージがありません。すべてが上記のような毒性のあるものだとは限りませんが、懸念がつきまとう材料という認識は持っておいた方がいいかもしれません。
これまでに様々な素材が検討されてきていますが、柔軟性やコストなどの観点から、いまだ塩ビプラスチゾルを完全に代替できる素材がないというのが現状です。塩ビワームを完全に使わないわけにはいかないと思いますが、可能なものは少しずつ環境素材に置き換えていくことが必要かと思います。