2021/01/10 21:20


以前フィラメントに含まれる水分がどのような影響を及ぼすかについてご紹介しました。

そうはいっても実際大きな影響はでていないんだけどな…。という方も中にはおられるかと思います。フィラメント乾燥をやって外観に明確な違いがでるというのは実はまれです。多くは判別に迷うような微妙な変化として現れてきます。例えば乾燥前後で比較すると糸引が少なくなる、オーバーハングが良くなる、定着が良くなるなどです。普通の形状で差がわからなくても、飛び石やオーバーハング造形など意地悪試験で比較すると差がわかることがあります。

程度の差はありますが、フィラメントの吸水によって樹脂の加水分解(高分子の鎖が切れる)や可塑化(高分子の間に水が入り込んで流動性が上がる)は必ず起きています。外観上はまったく差がなくても、物性面での違いが表れてくる場合もあります。試験片を作って引張試験をやると違いがあるとか、環境試験に入れるとクラックが出やすいなどです。3Dプリントでの造形は基本的には一点モノで、工業製品のようなスペックはありません。純粋に形を作ることだけを考えれば乾燥はそこそこでも成り立ちます。その造形品にどこまでを求めるかは人それぞれです。乾燥はマメにやっているという人もいれば、そんなに気にしていないという人もいます。人によって乾燥の見解がわかれるのはこういった背景も影響しているかと思われます。

樹脂成形メーカーでは管理を怠るとクレームの元になるので、あらかじめ含水率を測って乾燥条件を決め、管理を徹底するなど樹脂の乾燥はしっかりとやっています。ですが造形の場合は一旦乾燥しても長時間の造形によって次第に元に戻ってしまうため、乾燥状態の維持が難しいです。多くのフィラメントを全部厳格に管理するのは大変で、あまり労力に合わないという実情もあります。その造形の目的に応じて自分が欲しいレベルの管理をしていくといいかと思います。

フィラメントの乾燥をどう考えるかですが、一つの方向性として吸水の影響が出やすいと予想される場合は前もって乾燥をしっかりやるという形であればわりと負担なく運用ができるのではないかと思います。例えば次のような場合です。

◆乾燥強化が望ましいケース
・長時間の造形を行う場合(長時間になるほどノズル内水蒸気ガスによる詰まり、カスレのリスクが高まる)
・難易度の高い造形を行う場合(吐出追従不具合によるトラブル、造形外観悪化を未然防止できる)
・細い径のノズルを使う場合(細いとノズル内で水蒸気ガスが抜けにくくなる)
・造形品の信頼性を上げておきたい場合(造形品を長期使用する、荷重や温度がかかる部位で使用するなど)

フィラメントによっても吸水の仕方は違います。例えばPVAフィラメント、ナイロンフィラメントは吸水率が大きいとして知られている代表格です。これらのフィラメントは乾燥は徹底して行い、造形中もケースに入れたままでないとまともに造形できません。あまり知られていませんが、木質フィラメント(木粉添加)や導電性フィラメント(カーボンブラック添加)なども吸水率は大きいです。有機物が添加されていると吸水率が上がる傾向があるほか、より特性を出そうとして有機物の添加量を上げている場合ほど影響は大きくなります。こういったフィラメントは厳し目に乾燥管理するのが望ましいです。

Nature3Dの木質フィラメント導電性フィラメントはより特性を向上させ、かつ造形への安定性を確保するため非吸水性の樹脂を使っています。興味があればお試しください。