2021/11/05 21:20
フィラメントが吸水したときの挙動については、以前にPLAフィラメントが吸水すると造形品にどんな影響が出る?でもご紹介しました。最近はフィラメント乾燥機が出てきたこともあり、乾燥状態の維持や保管の重要性が以前より浸透してきたように思います。今回はフィラメントに取り込まれた水が造形中にどう振る舞い、どんな影響が出ているのか、改めて理屈的なところを論文記載内容の一部を抜粋、補足してご紹介します。
(オープンな記事でないので直接読めない方も多いと思いますがご容赦を…)
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フィラメントが水を取り込むと、吐出ビード間の接合状態が悪化します。3Dプリントではもともと造形品の特性に異方性がでやすいといわれますが、吸水で異方性がさらに大きくなるため造形に反りやひずみが起きやすくなります。水はフィラメント内部まで侵入し、フィラメントを膨潤させます。その結果フィラメント径が太くなり、スライサーの設定値とずれが発生することもあります。
他にも、ガラス転移点が低下してホットエンドでより早い段階から軟化が起こってしまう他、ノズルから出た後の樹脂の粘度が低下し、ノズル内での流動が乱れやすくなります。具体的には定着が不安定になったり、インフィルやペリメータなどの吐出ラインに切れが発生したり、線幅が脈動したりします。
吸水率が非常に高くなった場合は、ノズルを通って逃げる水蒸気ガスが吐出ビード周辺を覆ってしまうため、隣接するビードが溶融結合するのを防いでしまいます。積層部分だけでなく材料自体の強度も低下してしまうため、経時的な悪影響も受けることになります。
購入したフィラメントがどれだけ水を取り込んでいるかが気になるところですが、予想するのは非常に困難です。市販品のフィラメント製造工程において、樹脂は溶融吐出した直後に水槽に漬け込んで冷やされます。ラインスピードも冷却水温も絶えず振れがあります。このためフィラメントの吸水率は巻きの中でも一定の吸水率にはならず、ランダムに変化しています。製造された後にもフィラメントは仕掛かりや保管があり、これも吸水率に影響します。メーカーから供給されるABSフィラメントの吸水率は0.1~0.35%の範囲で変化しており、保管状態によっては0.5%を超えることがあります。
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論文ではフィラメントが水を取り込んだ場合、①流動特性が変化する、②フィラメントの膨潤が起きる、③水蒸気ガスの噴出が起きる、とあり、これは一定でなくフィラメントの中でランダムに起きる、と説明されています。このため条件を追い込んでも補正が効かなくなる、ということかと思います。