2021/12/18 20:16


熱可塑性樹脂は、アモルファスか、結晶の状態で存在します。

アモルファスの樹脂ではポリマー鎖が無秩序に配向しています。規則性がなくだらっと鎖が伸びて広がっている状態です。ホモポリマーでいうと、ポリスチレン(PS)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリカーボネート(PC)などがあります。アモルファスの樹脂は一般的に透明で、光沢があり、化学的な抵抗が低いという特徴があります。成形加工においては流動性が比較的小さいですが、樹脂の収縮の度合いが低く、反りや変形の小さい成形品が得られます。3Dプリンタで使われる樹脂もほとんどがアモルファスで、ABSやPETGもアモルファスの樹脂です。

一方で、ポリマー鎖が折りたたまれて一定の規則性を持っている樹脂もあります。結晶性樹脂といわれるものです。ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)などが代表的な樹脂です。結晶性樹脂は一般的に強靭で、不透明であり、高い化学的抵抗性があります。成形加工において流動性は高いですが、成形品の収縮度合いも大きくなります。3DプリンタでもPPフィラメントがありますが、トリッキーで扱いにくいといわれるのは周知のとおりです。これは樹脂を吐出した直後に結晶ができてしまい、結晶化の際の収縮によって反りが発生するためです。



金属の場合は、組織はほぼ100%結晶ですが、熱可塑性樹脂の場合は100%結晶ということはありません。高分子の結晶は鎖が折りたたまれてできていきますが、すべての高分子をきちんと整列して折りたたむことはできないため、折りたたみきれずに残る部分ができるというのが理由です。高分子材料の結晶化度は高くても50%程度といわれています。つまり、結晶性樹脂でも完全に結晶だけでできているのではなく、結晶の部分とアモルファスの部分が混在した状態になっています。英語だと結晶性樹脂はsemi-crystalline polymer(半結晶性樹脂)と書かれていることもあります。下の図でいうLamella(ラメラ)と書かれているのが結晶領域、Amorphous regionと書かれているのがアモルファス領域です。


結晶性樹脂で結晶の割合が高い場合は、より融点に近いところまで弾性率を維持することができます。耐熱的には有利です。逆にアモルファスの割合が多い場合は、熱がかかった際にアモルファスの部分が結晶よりも先に動いてしまうため、融点よりも大幅に低いところまでしか耐熱が持たないという場合もあります。

おもしろいのがポリ乳酸(PLA)です。PLAは結晶性樹脂ですが、溶融した状態から冷却するとポリマー鎖を折りたたむ時間がとれず、結晶ができずにアモルファスの状態で固まります。ABSもPETGもPLAも、3Dプリンタで造形した後は同じアモルファスの状態です。ですが、これらには大きな違いがあります。ABSやPETGは鎖がだらっとなっていた方がラクな状態で、PLAは本来は鎖が折りたたまれていた方がラクですが、鎖が折りたたまれるまでに十分な時間がなく、動きたくても動けない状態で鎖がだらっとさせられている状態、という違いです。ここに動けるだけの熱をかけてやると再び鎖が動き出し、折りたたまれて結晶を作っていきます。これがPLAの冷結晶化です。3Dプリント品のアニールはこの冷結晶化によって結晶を作ることで、融点まで近いところまで耐熱性を上げようという方法です。

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