2023/02/28 21:25


単純に考えれば、適切な温度域で溶融する樹脂であればフィラメントにしたときノズルから樹脂が出てくるわけですが、樹脂が出るからと言って必ずしも実際に3Dプリンタで造形ができるわけではありません。その材料が3Dプリント可能かどうかは、樹脂の機械特性やレオロジー特性に左右されるほか、いくつかの要素を満たす必要があります。

まず、そもそもフィラメントは製造時にスプールに巻きとることができ、プリント時にスプールから引き出して使うことが必要です。単純なようですが、スプールに巻きとりができるには材料の剛性と柔軟性に適切なバランスが取れている必要があります。硬すぎると折れてしまうため巻き取りができませんし、柔らかすぎても巻き取りテンションがかかって伸びてしまうため同じく巻き取りができません。

ノズルから溶融樹脂を安定的に吐出するには押出圧力がステッピングモーター脱調を起こさない範囲である必要があり、それには樹脂の溶融粘度がある程度低いことが必要です。低粘度であればフィラメントを押し込んだ時の座屈(ドライブギア手前でのフィラメント折れ曲がり)などフィラメント搬送の問題も起きにくくなります。

確かに樹脂の溶融粘度は低い方が吐出自体は安定します。しかし一方ではノズルから出た後にビードの形状を保持しにくくなるため定着時にダレが発生することにもつながってしまいます。3Dプリンタでは吐出の安定性と定着時の安定性という2つのプロセスを同時に満たす流動特性が必要です。そのため、フィラメントではシアシニング特性をもった樹脂が好まれます。シアシニングとは溶融樹脂がせん断を受けた時に粘度が急激に減少し、ノズルから出てせん断力が解放された後は急激な粘度上昇を示す特性です。力を受けてフィラメントを押し込めば樹脂の粘度が下がり、ノズルから出た後は速やかに粘度が上がるため、3Dプリンタには好適です。

熱可塑性樹脂には結晶性樹脂と非晶性樹脂の2つがありますが、フィラメントでは非晶性樹脂が使われることが多いです。結晶性樹脂の場合は冷却固化するときに結晶化が起きます。結晶ができるときに縮むために体積収縮が大きくなります。造形品内に高い残留応力が発生するため、反り、ベッド剥離、クラックなどが起こりやすい傾向があります。これに対して非晶性樹脂は冷却固化時に結晶を作らないために内部応力が小さくなりやすく、造形安定性の面では有利です。

とはいえ、結晶性樹脂には非晶性樹脂にはない特性を持っていることも多く、結晶性樹脂を使いたい場合もあります。結晶性樹脂をフィラメントとして使う場合は、結晶化度が低いグレード、結晶化速度が遅いグレードを使うというのが定石です。要は結晶化を緩やかにして少しでも残留応力をため込まないようにしようという考え方です。他にもその樹脂と相溶のよい非晶性樹脂や、無機フィラーが添加されることもあります。例えば結晶性樹脂として代表的なPP(ポリプロピレン)をフィラメントとして用いる場合、結晶化速度が比較的ゆるやかな共重合グレードのPPをベースにした上で、非晶質ポリオレフィン、タルクなどが添加されることがあります。

フィラメント用の結晶性樹脂は、結晶性を下げるため(=造形性を改善するため)に大きく改質されていることも多く、成形加工で使われる一般的なグレードの樹脂とは特性が大幅に異なる場合があることに注意する必要があります。

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