2023/11/29 10:16
3Dプリンタでの造形において、フィラメントの吸湿があるとノズル内で水が水蒸気になり、樹脂が気泡を含んだ状態でノズルから出てくることになります。これは造形外観や積層強度を悪化させることになるのでやっかいです。
一般的に、吸湿はフィラメントの乾燥を行うことで対策が取られます。乾燥によって造形の際に持ち込む水の量を少なくすればいいわけですが、よく知られている通り酢酸セルロースは吸湿性の高い材料です。吸水率は約2~3%程度で、吸湿速度も速いです。乾燥しても半日も放置すれば相当な量が吸湿してしまいます。防湿ケースに入れなければ造形中に吸湿が進むことも普通に起きます。
酢酸セルロースでももちろん乾燥は重要ですが、一般的なフィラメントと違い、乾燥だけで抑え込むといった考え方だけではうまくいかないことも多いです。そのため、酢酸セルロースフィラメントを扱う上では、ある程度の吸湿は避けられないものとして、吸湿とどう付き合っていくかという考え方がポイントになってきます。
フィラメントが持ち込む水の量は減らせませんが、気泡の成長を抑えることはある程度可能です。
まず一つ目は高い圧力をかけることです。高い圧力がかかっていれば、ノズル内で気泡が膨張することを抑えることができます。圧力アップにはいくつか方法がありますが、一番効果があるのが積層ピッチを小さくすることです。積層ピッチが小さくなるとノズル内圧力は高まることが知られています。フィラメントのフィードレートを上げることも有効ですが、効果は限られるので、圧力アップの意味では補足的な調整にとどめた方がいいかと思います。ノズル温度を下げることも手としては考えられますが、積層強度が低下してしまい、別の面で不具合が出やすいためあまり有効ではありません。
二つ目はノズル内の樹脂の滞留時間を短くすることです。加熱されている時間が短ければ同様に気泡の膨張を抑えられます。これは単純に造形スピードを上げてやればいいかと思います。酢酸セルロースフィラメントは表面硬度が若干低く、ドライブギアでスリップが起きていてもわかりにくいです。スライサーで設定した分の樹脂がでているかどうか確認しながら適切な造形スピードを見極めるといいかと思います。
三つめは、補足的な内容になりますが、フィラメントをノズル先端まで送り込んだ状態からスタートしないことです。スタート直後から遅れなく樹脂を出すために、ノズルをあらかじめ溶融樹脂で満たした状態でスタートする方法がよくとられますが、酢酸セルロースの場合は溶融状態で放置すると気泡が成長してしまうため、気泡を多量に巻きこんだ状態からスタートすることになってしまいます。ファーストレイヤーのできは造形品全体のできにつながることもあり、スタート時に良好な吐出ができていることは非常に重要です。また、酢酸セルロースの溶融樹脂は粘度が高いので、一旦できた気泡はなかなか抜けず、造形から数時間経っても気泡が出続けることがあります。そのため、造形開始時はフィラメントはあらかじめ引き戻しておき、ヒートブロックから距離を離しておいた方がよいかと思います。
リトラクション値を大きくするのもあまり好ましくありません。フィラメントを引き戻した際にノズル内の圧力が抜け、気泡が膨張する可能性があるためです。糸引きは増えますが、可能であればリトラクション値を小さくするか、OFFにしておくのがいいかと思います。酢酸セルロースでの糸引きは比較的簡単に除去できます。
あまりほめられたことではありませんが、条件が調整できていれば、フィラメント乾燥なしでもそこそこの造形が可能です。
これらの内容はスライサーの条件設定例にも反映してありますので、よろしければご覧ください。