2023/12/04 10:27


うまくいけば生分解性コーティング剤がDIYでつくれるのでは?ということから酢酸セルロース塗料を検討しています。

今のところ溶剤はアセトンです。アセトンは酢酸セルロースによく溶解するので便利です。アセトンは揮発が速い溶剤として知られています。揮発が速いということは塗料が速乾であり、塗り重ねの作業が手早くできるという利点があります。

ただしこれは別の側面からは欠点でもあります。塗料が速乾であると、下地に深く浸透しにくくなるほか、気温や湿度によってはカブリが起きやすくなります。カブリは塗膜が白くなってツヤがなくなる現象です。カブリの原因は塗料の溶剤が揮発する際の気化熱で周囲の空気が冷やされることです。結露した水が塗料の表層に取り込まれることでカブリが起きます。


これがカブリが起きた時の例です。本来黒い塗装ですが、まだらに白っぽくなってしまっています。

溶剤を変えて揮発速度を遅くすることができれば、さらに用途が広がる可能性が高まります。

アセトン以外にも酢酸セルロースを溶かせる溶剤はあります。メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、塩化メチレンなどです。しかしこれらのいくつかは劇物であったりすることから、一般には購入が難しいものもあります。仮に購入できたとしてもキツい溶剤を扱うことは極力避けたいところです。

そこで、次善の策としてエタノールを使えないか検討することにしました。エタノールは酢酸セルロースを直接溶かすことはできませんが、アセトンと混合し、混合溶剤として使用すると溶解性を持つようになります。

このように、単独では溶解力を持ちませんが、溶剤と併用すると溶解力を増大する性質があるものを助溶剤と言います。今回の場合はアセトンが真溶剤、エタノールが助溶剤です。溶剤をアセトン→アセトン+エタノールに置き換えることで揮発速度を遅くすることができます。

有機溶剤の蒸発のしやすさを示す指標に、相対蒸発速度というものがあります。相対蒸発速度はASTM D3539で規定されており、単位時間に単位面積から気化する溶剤の蒸発速度を示します。酢酸ブチルの蒸発速度を基準とし、それに対する相対的な数値で示されているものです。代表的な溶剤の相対蒸発速度は以下の通りです。


相対蒸発速度はアセトンが5.6とかなり高め。それに対してエタノールは1.54と揮発がゆっくりであることがわかります。

そこで、酢酸セルロース10%溶液の場合、アセトンをどこまでエタノールに置き換えることができるか、実験を行いました。下記はアセトン:エタノール : 酢酸セルロース = 6 :3 : 1 の例です。


まず容器にアセトンを6g入れます。


次にエタノールを3g入れて9gにします。


フタをしめて攪拌します。




これに酢酸セルロース樹脂ペレットを1g加えます。


半日ほどおくと酢酸セルロース樹脂ペレットが溶けて溶液になります。


アセトンとエタノールの比率によっては酢酸セルロース樹脂が溶け切らず、残ってしまいます。


これが酢酸セルロース樹脂10%において、アセトンとエタノールの比率を変えた結果です。アセトン:エタノール = 45% : 45% (アセトン:エタノール = 1 : 1)では酢酸セルロースが溶け切らず、攪拌してもゲルの状態になっていることがわかりました。アセトン:エタノール = 60% : 30% (アセトン:エタノール = 2 : 1) あたりが上限のようです。

溶剤だけで見ると、全体の33%をエタノールに置き換え可能ということになります。この分揮発を遅くすることができそうです。