2023/12/19 11:57


酢酸セルロース造形品に対して溶剤塗布することで溶け込み不足を補い、欠陥を埋める効果があり、強度アップが狙えそうなことがわかりました。

この方法では溶剤は外側から塗布するので、造形品の外殻は強化できそうです。溶剤の揮発を遅くすることで、ある程度内部にも浸透することが期待できますが、肉厚の造形品の場合は内部まで浸透させることはできそうにありません。溶剤塗布は外殻であるペリメーター部分に対しては効果がありそうなものの、造形品の内部にあるインフィル部分に対しては効果があまり見込めなさそうです。

では、インフィルを強化する方法はないのでしょうか?造形中にインフィルへ溶剤を塗布することが一案ですが、溶剤によって造形品を溶かしてしまったり、揮発によって造形品の温度を下げてしまうとノズルから出た樹脂の定着に不具合が出てしまう可能性が考えられます。また、溶剤を3Dプリンタ内で扱うのも安全上の観点で好ましくありません。

そこで、次善の策として可塑剤を塗布することを考えました。可塑剤であれば造形品を溶かしませんし、揮発がないので造形品の温度はそれほど下がりません。


インフィルへの可塑剤塗布を試しにテストしてみることにしました。100 x 20 x 3tの板を同時に2枚造形します。片方はそのまま造形し、もう片方は造形中に可塑剤を塗布することにしました。


造形中の可塑剤塗布の様子。今回はノズルが離れている瞬間を狙って筆を入れて塗布しました。これもあまり安全上はよくないので、きちんとやるならポーズ機能などでノズルを退避させた安全な状態で実施するのが好ましいかと思います。慌ててどっぷり塗ってしまった部分があり、この部分で若干インフィルの積層が乱れてしまいました。ごく薄塗りするくらいでいいようです。

可塑剤は樹脂中にとりこまれ、分子運動で拡散していくので、長い時間をかけて全体に広がってくれます。以前試しに可塑剤を造形品表面に塗ったのですが、ベタベタになってしまうのでこの方法はあきらめました。今回の可塑剤は食品添加物としても使われているものなので、可塑剤自体の安全性に問題はありません。


これが造形後のサンプル。左が可塑剤なし、右が可塑剤あり。外観上は大きな差はありません。


簡易的にサンプルを指で二つ折りにし、完全に破断するまで曲げてみました。これが可塑剤なしのサンプル。途中からパリっと音がして、割れるような形で破断しました。もろいのか、ささくれのようになった部分が見られます。


こちらがインフィルに可塑剤を塗布したサンプル。確かに割れはしましたが、全体的には断裂することなく耐えていることがわかります。割れる時にパリッという乾いた音はなく、手感でもわりと力がいるような感覚があります。


破断した後のサンプルです。左が可塑剤なし、右が可塑剤あり。可塑剤なしは回復があまりありませんが、可塑剤ありはスプリングバックで形状が元に戻ろうとしていることがわかります。

あくまで初期段階のざっくりした評価ですが、わりと効果はありそうな感じです。うまくいけば溶剤塗布で外殻の欠陥を補い、可塑剤塗布でインフィルに靭性を持たせるという両方の方法で強化することも可能になるかもしれません。時間を置いた際に可塑剤がブリードしてこないかなども確認の必要がありますが、継続検討していきたいと思います。