2024/02/18 11:15

酢酸セルロース樹脂は吸水率が高いことで知られています。約2%ほどの吸水率で、PLAやABSといった樹脂と比べるととても高い数値です。造形は吸湿の影響を大きく受けそうですが、実際にはどうなのでしょうか?


写真は酢酸セルロースフィラメント吸湿の影響を比較したものです。左は造形直前にフィラメントを乾燥させたもの、右はフィラメントを三か月ほど室内放置して吸湿させたもので、スライサー条件はどちらも同じです。意外なことに、パッと見の造形外観としては大きな差がありません。写真ではわかりにくいですが、右の吸湿フィラメントの造形品は若干白っぽい仕上がりになっています。


上からの写真ではわかりにくいので、造形品の側面を見てみます。こちらが乾燥フィラメント造形品です。


これが吸湿フィラメント造形品です。

吸湿フィラメントでは造形中に発生する微小な気泡を巻き込んだ状態でビードが定着し、光の散乱を受けることで全体が白くなっているようです。いわば「発泡造形」に近い感じかと思います。


透過で見てみます。こちらが乾燥フィラメント造形品です。


これが吸湿フィラメント造形品です。吸湿フィラメントは少しインフィルが見えにくくなっています。光の散乱を受けていることがわかります。


フィラメントが吸湿していることで樹脂の出が悪くなっている可能性が考えられます。そこで造形品の重さを比較してみました。こちらが乾燥フィラメント造形品です。重さは7.43gです。


これが吸湿フィラメント造形品です。重さは7.48gです。乾燥フィラメント造形品と吸湿フィラメント造形品の差は0.6%で、樹脂の吐出量に吸湿はほとんど影響を受けていないようです。

一般的に、フィラメントが吸湿していた場合、ノズルの中で加水分解が起きます。分子量低下による流動性アップから、より弱い力で樹脂が押し出せるようになりますが、これは弱い力をかけることでしか吐出のバランスが取れなくなるということでもあります。もしノズル内で水蒸気が膨張してしまうと、膨張の力で溶融樹脂が押し返されることで全体的に吐出量が減ってしまったり、吐出量に脈動が発生することになります。これがフィラメント吸湿による外観悪化の一因です。

それに対して、酢酸セルロースの場合もノズルの中で加水分解が起きる可能性はありますが、酢酸セルロース樹脂の流動は主に可塑剤に依っているため、それほど流動性に大きな影響を与えることがないことと、FFFにおける酢酸セルロースの押出は比較的強い力が必要で、気泡が大きく成長しにくいことから、吸湿していても吐出量の減少や脈動が発生しにくいというのが上記のような結果につながっているのではと推測しています。

酢酸セルロースは吸水率自体は高めであるものの、厳密な吸湿管理をしないとFFFで造形困難というわけではない、というのがこれまで扱ってきた感想です。

スライサー条件がしっかりと調整できているなら、より透明性や強度を求める造形の場合は吸湿管理を徹底し、形状が出ていればいい場合はほどほどの管理で運用するということもできるかと思います。スライサー条件が十分調整できていない状態だと不具合が起きてしまうこともあり得るので、まずはしっかりとフィラメント乾燥をかけた状態で調整し、挙動が把握できた後で吸湿管理緩和の検討を行うのが好ましいと思います。