2024/02/05 12:33


酢酸セルロースフィラメントはこれまで多くの方にお使いいただいてきましたが、割と難易度が高めというお声をいただきます。3Dプリンタを普段からお使いの方でもなかなかうまく造形できないこともあります。

うまくいかない内容はほぼ100%が吐出にまつわるもので、樹脂が途中から出なくなる、もしくは最初から出ないというものです。挙動が一般的なフィラメントと違っていることから、むしろPLAやABSに慣れている人ほど調整にお困りになるケースもあります。

しかし、この樹脂はこんな挙動なのだと把握でき、調整の方向性がわかれば、それほど極端に扱いが困難な材料でないのも事実です。

Nature3Dのフィラメントに限って言えば、酢酸セルロース樹脂は他の樹脂と同様に、3Dプリントに適したMFRが高めのものを選定しているのですが、FFFにおける吐出の挙動に大きな違いを生んでいるものは何なのでしょうか?

これまでにわかっていることは二つあります。

一つ目に、実は酢酸セルロースフィラメントの吸湿は吐出にそれほど大きくは影響していないということです。きっちり条件が出ていれば、長期間放置したフィラメントでも造形ができることがわかっています(もちろんフィラメントの乾燥はすべきで、乾燥した方が外観はきれいに仕上がりやすいです)。酢酸セルロースの造形において吸湿面で気を付けること

二つ目は、押出の抵抗が高めだというです。ノズルを外した状態でヒーターをONにし、手でフィラメントを押し込むと、一般的なフィラメントではそれほど抵抗なくヒーターを通過できます。ところが酢酸セルロースフィラメントは十分に乾燥した状態でもかなり抵抗が感じられます。

これらから考えると、酢酸セルロースフィラメントの造形難易度は、おそらく内壁への樹脂の貼り付きからきているのではないかと考えられます。


酢酸セルロース樹脂は、溶融し始めた早い段階から付着性を持ちやすく、樹脂がバレルやノズル壁面に貼り付きます。この貼り付きは比較的入口に近い部分から起き、かつ貼り付いた樹脂は時間と共に厚みを増して成長します。貼り付いた溶融樹脂は次第に流路を狭めてしまうことから、ノズルからの吐出安定性や均一性の維持が困難になる、というのが推測されるメカニズムです。

それでは、どうすれば酢酸セルロースフィラメントは安定的に3Dプリンタで扱えるようになるのでしょうか?結論としては、強い圧力をかけて、壁面に貼り付く樹脂を絶えず押し出してやるというのが対策になります。FFF式の3Dプリンタでは樹脂はステッピングモーターの送り量で調整され、直接圧力をコントロールすることはできませんが、圧力を高める方法は二つあります。


積層ピッチを小さくし、ノズルとベッドの間隔を狭める方法が一つ目です。


押出の係数(Extrusion multiplier)を上げる方法が二つ目になります。積層ピッチの方が圧力アップ効果は高いです。二つを組み合わせるとより圧力を高めることができます。これらはスライサー条件にも反映してありますので参考にしてください。

これらはフィラメントを適切にグリップできていることが前提になります。ドライブギアに摩耗がないか、溝に削れ粉が詰まっていないかなども事前に確認が必要です。もともとグリップ力が弱い場合はドライブギアを適切なものに交換することも必要です。

酢酸セルロース樹脂はペレット式大型造形で多く使われるようになってきています。大型造形だと比較的安定して扱えているのは、押出樹脂の体積と比べて押出機内部の壁面が占める割合が少ないことがあるのかもしれません。

それに対してFFF式の小型機は壁面だらけの細い空間を通って樹脂が吐出されることになります。同じ樹脂でも、この辺りが吐出の挙動に大きい影響を与えているのではと推測しています。