2024/06/16 18:57


3Dプリンタはずいぶん進化し、きれいな造形品を作るのは昔に比べ比較的容易になりました。次に問題になってくるのは造形品の信頼性です。造形品の信頼性を確保するための考え方に困っている方もおられるかもしれません。
以前にシアシニングという話をさせていただきました。せん断によって粘度が下がり、せん断が止まると粘度が上がるという特性です。3Dプリンターではノズル内部で樹脂のせん断が起きており、ノズルから出ることでせん断から解放されます。多くの文献ではシアシニングがフィラメントには適切な特性として紹介されています。 ところが最近はエクストルーダー負荷を減らすため、粘度が最初から低く、シアシニング特性が低いフィラメントも存在します。このタイプは送り出し負荷が低いので、吐出追従性はいいのですが、定着してもしばらく粘度が低く、熱ダレが発生しがちです。きれいに造形するためにはファンで急冷しなくてはなりません。

急冷によって造形はきれいにできるものの、樹脂は分子拡散の時間が十分にとれなくなり、ひずみをため込んだ状態になります。時間とともに造形品はひずみを解放しようとします。具体的には、割れたり、もろくなったり、反ったりと、信頼性が低い造形品になる可能性があるわけです。
中には手でロードしたときに軽く吐出できるという理由でフィラメントを選定される方もおられます。しかし軽い力で吐出できるということは、せん断が十分効いておらず、シアシニングになっていない可能もあるため注意が必要です。吐出が軽すぎる場合は、エクストルーダーの許す範囲で温度を下げることで、ある程度シアシニング領域に近づけることができます。 見落としがちなこととして、フィラメントの吸水があります。フィラメントに取り込まれている水は、加水分解を起こして高分子鎖を切断したり、高分子の間に入り込んで可塑剤として働くことで樹脂の粘度を下げます。これにより、使っていると次第にシアシニング特性から外れた領域に移行してしまうこともあります。状態が変わったからとスライサーの空冷補正を強めにかけてしまうと、信頼性の面で思わぬ影響が出る可能性もあります。造形品に信頼性が必要な場合は、フィラメントの管理にも注意してください。