2024/08/24 14:22


酢酸セルロース樹脂をバインダーに使った、左官材の検討を行いました。


左官というのは、コテで漆喰などの材料を壁に塗って仕上げるもので、建築では欠かせない方法です。左官材は、一般的に漆喰や珪藻土などが使われます。モルタルも左官でよく仕上げられます。最近はウレタン樹脂を使った左官材も登場してきています。

今回は、酢酸セルロース樹脂の溶液をバインダーとして粉末を練り合わせ、左官的に塗ることができるかを検討しました。生分解性樹脂をバインダーに使うことで、自然に還すことができる左官材が実現できる可能性があります。


これが今回調合した酢酸セルロースのバインダー溶液です。屋外で粉体と練り合わせる作業を長時間行っても、乾燥しにくい組成にしてあります。


このバインダー溶液と粉体を練り合わせます。今回はフライアッシュという粉体を使いました。


フライアッシュにバインダー溶液を投入しているところです。


フライアッシュ4gに対してバインダー溶液を1.3g使いました。全体の比率としてバインダー溶液を25%程度投入したことになります。これを練り合わせていきます。


けっこういい感じになってきました。すくって垂らすと糸を引いて落ちるくらいです。今回は少しバインダー溶液の量が多かったかもしれません。


厚紙に塗り広げてみました。


わりといい感じに塗れます。


塗り広げることで溶剤が揮発していき、塗った形状を保持することができるようになります。


これが塗り終わった直後。屋外放置で乾燥させます。


これが完全乾燥した後の写真です。白っぽくなってフライアッシュの地の色になっています。乾燥は比較的速めです。30分もあれば触指乾燥するので、触って質感を確かめることができます。ただ、内部の溶剤を飛ばして完全硬化させるには比較的長い時間がかかります。今回は夏場の日差しにさらしての乾燥で3時間程度かかりました。

これでもいいのですが、一つ問題があります。このバインダーは溶剤が揮発して硬化するため、内部にスができます。溶剤が揮発するときに内部に通り道を作ってしまい、これがスになってしまうわけです。




そのため、爪先で少し強めに押すとへこんでしまい、痕が残ってしまいます。これでもいいという用途もあると思います。昔の土壁などは、それほど強度がなくても実用として使っていました。


今回は酢酸セルロース樹脂をもう一度塗り、できたスにもう一度樹脂をしみ込ませてやることで強度を補うことにしました。塗布にはルアー塗装綿ひも樹脂含浸の時に使った生分解性酢酸セルロースセメントを使いました。


上から酢酸セルロースセメントを塗っても、左官材が溶けてしまうことはありません。今回は二回塗りを行いました。乾燥時間は二時間程度です。



これで、爪先で押しても痕がつかなくなりました。

それでもモルタルのような左官材に匹敵する硬さにはならないので、実用検討の際にはこの辺りが課題になるような気がします。対策としては、バインダー樹脂の溶剤量を減らす、左官での塗りを薄めにする、含浸樹脂の浸透性を改善する、などがありそうです。

世の中には十分利用されていない廃棄物が数多くあります。貝がら、蟹がら、卵殻、おがくずなど。今回使ったフライアッシュもその一つです。このような材料を生分解性樹脂によって有効利用することができれば、大きな意義があるように思います。