2021/03/25 19:35


よく言われることですが、3Dプリンタでは物性表の数値で強度が高い材料を使ってプリントしても高い強度になるかというと、必ずしもそうでないのが難しいところです。確かに材としての強度はあったとしても、3Dプリンタの造形品強度は積層強度に支配されるため、いくら材として強くても積層強度が得られなければ造形品としての強度は上がらないためです。

こちらを引用してご紹介します。意訳になりますがご容赦ください。
PDFでの1. Introduction 2ページ目より

----- 以下翻訳 -----
3Dプリンタにおいて、PLAはABS比較で耐久性が低いと言われるが、これは正しくない場合もある。確かに高温雰囲気下であれば3DプリントされたPLA造形品は、ABS造形品よりも大幅に性能は低下する。ところが通常温度雰囲気下ではこれが逆転する。ポリマーが冷却される際の収縮により発生する残留応力のため、ABS造形品は小さい負荷でも層間剥離によって破損する可能性がある。ABSは造形中でもクラックで破損することもある。そのため、通常温度雰囲気下においてはPLA造形品は内部応力が小さくなり、優れた機械特性を示す。試験片の引張強度はABSで28.5MPa、PLAで56.6MPaと報告されている論文もある。
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これはどういうことでしょうか。図で考えてみます。造形品の1点の温度が時間経過とともにどう変わるかの模式図です。仮にノズル温度は230℃でプリントしたとします。


樹脂の液体と固体を分けるのがガラス転移点です。樹脂は吐出された後冷却され、ガラス転移点を境に樹脂は固体になります。ガラス転移点に達するまでは樹脂は自由に動くことができますが、ガラス転移点を下回るとひずみを解放することができなくなります。そのためガラス転移点に達するまでの時間が長ければ長いほど、固化の際に発生する収縮の応力を逃がすことができるため有利ということになります。

ABSの場合はガラス転移点が約100℃と高めのため、吐出されてから比較的早い時点で固化が始まってしまい、ひずみがため込まれやすくなります。この対策でヒートベッドが使われるわけですが、ヒートベッドの熱は造形品が積層されるほど伝わりにくくなって冷却速度が速くなってしまい、反りや強度低下につながってしまいます。これがABSの造形が難しいといわれる理由の一つです。ヒートチャンバーなどで雰囲気温度を上げることができれば冷却の速度をゆっくりにすることができ、積層強度を高めることができるようになります。


一方PLAの場合はどうかというと、ガラス転移点は約55℃です。ABSと比べて長い時間液体でいることができるため、ゆっくりとひずみを逃がすことができます。雰囲気温度を上げることができれば固化までの時間をより長くできますが、通常環境でもひずみを解放するのに比較的十分な時間がとれるため、常温と雰囲気温度を上げた場合で差が出にくいというわけです。

ABSは確かにPLAより機械特性は優れますが、それは積層強度の問題をクリアした上での話で、そうでなければ造形品強度は積層強度に支配されることになるということになりそうです。