2022/05/10 17:31


レオロジーは物質の流動全般を扱う分野の学問です。3Dプリントも樹脂の流れを扱う加工法で、ノズル内部での粘性流動や、定着から溶融接合に至るまでの挙動など、レオロジーが関係しています。

樹脂は、溶融時に力を受けると粘性と弾性両方の挙動を示します。この内、粘性成分は応力がかかったときにどれだけ力の伝達ロスがあるか(エネルギー損失)に関係します。粘性があると摩擦が高くなり、かかった力は摩擦によって最終的に熱に変換されます。樹脂が流動するには、摩擦によるエネルギー損失を補うだけの圧力エネルギーを与える必要があります。粘性が低いと摩擦を受けにくいため、3Dプリンタでは粘性は低い方が吐出の面では有利ですが、粘性が低いと定着した後にビードの形状を保持しにくくなるデメリットもあります。粘性は必ずしも低ければいいわけではありません。

もう一つの弾性成分は、応力が取り除かれたとき、元通りになろうとする復元の度合い(エネルギー貯蔵)に関係します。同様に、樹脂が流動するには弾性エネルギーのため込みを上回る分の圧力エネルギーを与える必要があります。溶融弾性によるエネルギーのため込みはノズル出口を出ると解放され、その分膨張します(ダイスウェル)。そのため溶融弾性が大きいとノズル径よりビード幅が大きくなり、逆に溶融弾性が小さいとノズル径とビード幅が近くなります。3Dプリンタでは溶融弾性が小さいと造形精度は向上しますが、吐出の際の膨張が少なくなるために圧力がかかりにくくなり、層間の良好な密着が得られにくくなるデメリットもあります。

粘性成分が弾性成分よりも大きいと溶融樹脂は流体に近い振る舞いをします。逆に、粘性成分が弾性成分より小さいと固体に近い挙動になります。3Dプリンタにおいては溶融樹脂の粘性成分が弾性成分より大きい、ということが吐出が成立する条件の一つになっています。

3Dプリンタでは吐出の際には粘度は低く、定着するときには粘度は高くなることが望ましいですが、これには大きく2通りの考え方があります。一つはノズル温度を高めとして粘度を下げ、定着した後に送風で冷却することで造形品を安定させる方法です。この場合はフィラメントを送り出すのに高い力を必要と必要としないため、エクストルーダーの負荷は小さくすることができます。ただし吐出圧が低くなるほか、温度によって粘度を下げているため急激な冷却が必要になります。圧力不足でビード形状が丸くなってボイドが増えたり、高分子鎖拡散の時間が短くなって積層強度は得にくくなる傾向があります。

もう一つは積層ピッチを小さくして吐出圧力を高め、溶融樹脂のせん断を上げる方法です。樹脂の粘度は温度以外にもせん断によって下げることもできます(シアシニング特性)。この場合はフィラメントを送り出すのに高い力が必要で、エクストルーダー負荷は比較的高くなります。吐出圧が高くなることで層間の密着が向上するほか、応力が取り去られるとすぐに粘度が上がるために、急冷しなくても熱ダレは起きにくくなります。ビード形状がXY方向に広がることでボイドが少なくなり、高分子鎖の拡散も長く時間が取れるため、積層強度が得やすくなる傾向があります。