2022/08/05 19:54

2022/8/5に実施されました、日本3Dプリンティング産業技術協会主催のサステナビリティと3Dプリンティング2022にNature3Dが登壇し、「生分解樹脂・バイオマス素材を中心とした3Dプリンター用特殊フィラメント」というタイトルでお話をさせていただきました。その時の資料とお話した内容を掲載いたします。


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ここからはフィラメントのご紹介となります。耐熱PLAフィラメント、導電性フィラメント、木粉入りフィラメント、酢酸セルロースフィラメントです。今日は耐熱PLAフィラメントを中心にお話させていただきます。


まずはPLAフィラメントです。高耐熱用途として2品種を扱っております。LFY3Mという品番、こちらはPLAにミネラル(鉱物由来の成分)を30%添加しております。もうひとつのLFG30はガラス繊維を30%添加したものです。アニールという造形品の加熱処理によって、耐熱性を格段に向上させることが可能です。エンプラが対応できない安価なプリンタでも耐熱性を持つ造形品を得ることができます。そのほかの特徴として、LFY3Mについては研磨が容易であること、市販の接着剤での接着が容易であることが挙げられます。造形品の後加工がやりやすいということでご紹介しております。LFG30についてはガラス繊維からくる補強効果が働くことから高強度、高剛性の造形品が得られます。また、両方に共通する造形上の特徴が2つ赤字で書いてあります。一つ目は低収縮だということです。ご存じの通り3Dプリンタでは金型がありませんので、樹脂が溶融状態から固体になるときの収縮はそのまま反りや寸法精度に影響します。収縮が小さいということは、これらの点から造形にとっては有利となります。二つ目は低吸湿であるということです。一般的にフィラメントは大気中の水、湿気を取り込みやすい性質がありますが、無機フィラーが添加されることで水分子が内部に拡散しにくくなり、樹脂としての吸湿が小さくなります。次に推奨条件ですけれども、両方ともノズル径0.4mm以上、ノズル温度はLFY3Mが200~230℃、LFG30が210~240℃と一般のPLAよりも高めの温度設定となっております。LFG30については摩耗性が高いということで、ノズルやドライブギアを耐摩耗性のものに変更いただくことを推奨しております。


こちらが耐熱テストの実例です。左側が耐熱テスト前、右側が耐熱テスト後の写真になります。テストサンプルは50x10mm、板厚2mmの試験片で、インフィル30%で造形したものです。LFY3Mはあらかじめ100℃x20分でアニールをかけてあります。リファレンスは他社の一般的に市販されているPLA造形品です。これを治具にはさんで片持ち状態でセットしまして、トレーに乗せたまま140℃ x 1Hオーブンに投入します。中央にあるのがオーブンにセットした写真で、加熱が終わってドアを開けた直後の写真です。右の写真が取り出した後の拡大写真ですけれども、LFY3Mは熱ダレを起こしていないのに対して、他社PLAは大きく変形していることがおわかりいただけるかと思います。


ではこのアニールというのはどうやるのかということですけれども、やり方はとても簡単で、造形品をトレーに乗せてオーブンに投入し、加熱するだけです。温度の均一性の観点から、熱風対流式のオーブンを用いて、あらかじめ所定温度に予熱した上での投入を推奨しております。加熱の推奨条件は100~110℃で20分です。この100~110℃という温度はPLAの結晶化が最も進む温度域で、温度は低くても高くてもアニールの効果が得られにくくなりますので、この点はご注意いただく必要があります。


アニールによって、PLAに何が起きるかということについてご説明しているのがこの資料です。通常、PLA造形品は耐熱性に劣るといわれています。これは、造形後のPLA樹脂の分子構造が非晶状態にあることからきております。非晶状態にあると、耐熱性はその材料のガラス転移温度に支配されます。PLAのガラス転移温度は約55℃ですが、これが耐熱温度を決めている要因となっております。この非晶状態にあるPLAに対してアニール処理を行うことで、非晶相から結晶が成長しまして、全体が結晶相に変化します。右は文献の引用ですが、結晶化したPLA樹脂を偏光顕微鏡で見た写真です。放射状に広がった丸いものが見えておりますが、これがPLA樹脂の結晶です。丸い形をしていることから球晶と呼ばれています。球晶の内部構造が右下の図で、中心の核から高分子の鎖が矢印の方向に向かって折りたたまれて成長しています。球晶の内部は高分子の鎖が密に詰まった状態となっているので、結晶化した後は熱をかけても緩みにくい特性となります。このためにアニールを行った後のPLAは耐熱性が向上します。また、LFY3M,LFG30はさらにフィラーによる補強効果も働くため、熱がかかったときにも結晶同士が動かないように固定してくれます。この結晶化とフィラー補強の2点によって、PLAの融点近い耐熱性を得ることが可能となっております。一般的なPLAではご存じの通り、アニール時に反り変形が大きいためアニールして使うということが難しいですが、LFY3M,LFG30では無機フィラーを高充填していることからアニール前後で変形が抑制されており、アニール処理が簡単にできるようになっています。


次に、アニールでどれくらいの収縮が起きるのかを測定したデータをご紹介します。20mmの立方体を同一条件で造形し、アニール前後のX,Y,Zの3方向の寸法を測定します。グラフはその寸法について収縮率の結果を示したものです。数値はプラスの方向が収縮、マイナスの方向が膨張という意味です。数値がゼロに近いほどアニール時の寸法変化が小さいということになります。3種類のサンプルで比較しておりまして、水色が他社PLA, ピンクがLFY3M, 緑がLFG30です。LFY3M, LFG30はXY方向で見ると0.1%未満ということで、特にXY方向に対して寸法が安定します。Z方向は約0.5%以下の変化率です。これに対して他社PLAはX方向,Y方向に約2%収縮して、Z方向に約3%程度膨張しています。これは主にXY平面方向に造形品の収縮が起きて、その分の変形がZ方向に解放された結果です。LFY3M, LFG30は寸法が安定し、目視での変化も起きないという結果となっております。


耐熱PLAについては耐熱のデモンストレーションと応用展開の意味も込めて、以前より鋳造のモールドとして使う検討を行ってきております。写真はLFG30で造形し、アニールを行ったモールドに、融点138℃のスズビスマス合金を流し込んで鋳造を行った時のものです。白い部分がLFG30で造形したもので、桜の形に流れるように造形してあり、左右対称のモールドで挟み込んで鋳型として使うようになっております。鋳込み時の溶湯の温度は実測で150℃程度ですが、ご覧いただいているとおり、型の変形はなく、鋳造用のモールドとして機能していることがわかります。